高輝度光科学研究センター(JASRI),北海道大学,理化学研究所らは,X線自由電子レーザー施設SACLAにおいて,原子レベルの精度をもつ集光ミラー(反射鏡)により超高強度X線ビームを生み出し,これを用いた世界最高分解能の超高速のX線フラッシュ顕微鏡を実現した(ニュースリリース)。
X線フラッシュ顕微鏡は,XFELの非常に短いフラッシュ(100兆分の1秒)を,タンパク質分子などの非常に小さな試料にあてることで,究極的には試料中の原子の動きを観る超高分解能・超高速撮影顕微鏡。
将来,原子分解能に迫る高空間分解能でスナップショット撮影が可能になり,疾病の原因解明や新薬の開発が期待されるが,この超高分解能顕微鏡を実現するためには,光源から来るX線をできるかぎり集め,極微小な分子サイズの世界を効率よく明るく照明する超高強度ビームが必須となる。
研究グループは,多層膜集光ミラーを開発し,X線を高圧縮率(高増幅率)で高効率に集光できるようにした。このX線集光ミラーを原子レベルの精度で製作するには,非常に高精度な非球面(複雑な曲面)加工技術とともに,非常に高精度な計測技術が必要になる。
そこで,研究ではX線ミラーの製作に用いられている従来の超精密加工技術に加えて,特に新たな高精度表面形状計測装置を開発した。これらを用いることで,反射面が楕円形状のX線集光ミラーを作製した。
開発した多層膜集光ミラーを搭載したX線フラッシュ顕微鏡をSACLAにおいて開発した。多層膜ミラーにより形成した集光ビームを評価した結果,理論通りの集光サイズ(110nm(横)×60nm(縦))をもつ超高強度ビーム(光子密度(光の集まり具合): 4×1012photon/µm2/pulse以上)を実現した。
これにより集光前と比較してXFELの光子密度は200万倍に増強されるとともに,SACLAでX線フラッシュ顕微鏡に従来用いられてきた1μm集光ビームと比較して,50倍の光子密度を達成した。
この超高強度ビームを利用したX線フラッシュ顕微鏡により,水中の金の微粒子にXFELを1ショットあてて超高速観察した。その結果,1ショットの観察によるX線フラッシュ顕微鏡の従来の分解能10nm弱に対して,世界に先駆けて2nmの超高分解能を達成した。
金はナノスケールの粒子になることで特異な物理的,化学的特性を持つ。生体試料の観察にも発展可能な水中において,材料がXFEL観察で変化する前に,超高速フラッシュを用いて超高分解能観察することに成功した。観察した結果は,微粒子の構造と機能との関係を解き明かす重要な情報を示すものだとする。
研究グループは,超高分解能かつ超高速観察により,医薬品や革新的電池の開発等へとつながるとしている。