神戸大学と東北大学は,密度汎関数理論に基づく第一原理計算により,界面モデルを機械的に探索する方法と安定な界面構造を得るための指導原理を提案した(ニュースリリース)。
磁性材料として注目されている鉄・パラジウム(FePd)は,L10秩序構造をもつ強磁性合金であり,高い垂直磁気異方性と低い磁気摩擦定数をもつ。このFePdをMRAMの磁気トンネル接合素子(MTJ)として利用するために,FePdにグラフェンを積層した構造(FePd/Gr)が最近実験的に合成され,応用上良好な性質を持つことが報告されている。
一方で,理論計算によるシミュレーションモデルを構築するために必要な,界面の原子スケールの構造はまだよくわかっていなかった。
研究では,第一原理計算を駆使しエネルギー的に安定と考えられる界面構造の予測とその電子・磁気状態の解析を行なった。解析にあたり,FePd(001)面上の炭素原子配置を網羅的に生成し,ひずみの小さなモデルを自動的に探査する方法を構築した。
いくつかの安定構造の候補のうち,ツイストした(Fe格子とグラフェンが「ねじれた配置」で積層された)界面モデルが-0.19~-0.22eV/atomの大きな吸着エネルギーを持つことが明らかになった。
また,吸着状態の特徴を調べると,ファンデルワールス力による物理吸着と化学吸着の中間的な振舞いが現れており,先行する実験でも報告されている「しなやかな」結合と「強い」混成軌道の存在を理論的にも確認した。
さらに,吸着されたグラフェンにナノスケールのバックリング(層を構成する原子の上下位置が波状に変化する現象)が見られた。このような変形がFePd/Grのような系に現れることはこれまで知られていない。さらに,計算された層間距離や表面付近の磁気的性質などに,実験結果とよく整合する振舞いを確認した。
金属と二次元物質界面は理論・実験の両方から非常に関心を持たれている系。先行する多くの研究はアルミニウムやニッケルなどの面心立方金属の(111)面と六方晶系のグラフェンなど格子対称性が整合する系を対象としている。
このような系では,金属の組成の違いにより吸着メカニズム(物理吸着・化学吸着)が変化することや,モアレ超構造によるバックリングのような特徴的な振舞いが生じることが知られている。
その一方で,今回研究グループが注目するFePd(001)/グラフェン界面のように格子対称性が大きく異なる合金表面において,原子配置や電子・磁気構造がどのようになるかはよく理解されていない。
研究グループはこの成果が,FePdのほかFePtやCoPtなどの強磁性合金と二次元物質界面の理論モデル構築や材料探索に期待できるとしている。