北海道大学,伊カタンザロ大学,金沢大学,芝浦工業大学らは,発光性材料として知られるポリフルオレンビニレン誘導体が,固体中で鎖が急角度で折れ曲がる”ターン構造”と一方向にねじれた”らせん構造”から成る不均一な折りたたみ構造を形成することを発見した(ニュースリリース)。
人工高分子の制御立体構造として一方向巻きのらせん構造が知られており,この構造に基づいて医薬品原料などのラセミ体の不斉識別,円偏光発光等を含む実用的キラル機能が実現されているが,従来は,均一で単調ならせん構築が制御の焦点だった。
これに対して,らせん構造を含む天然高分子であるタンパク質は,らせんに加えてb-構造,ターン構造等が精巧に組み合わされた不均一な折りたたみ構造を持っている。しかし,人工高分子には,複数の2次構造からなる折りたたみ構造制御の明確な例はなかった。
研究グループは,側鎖にキラルなメオメンチル基を有するポリフルオレンビニレン誘導体が,薄膜中および懸濁液中(いずれも固体中)で一方向にねじれた“らせん構造”が鋭く折れ曲がった“ターン構造”により連結された不均一折りたたみ構造を形成することを実験および理論化学的手法により明らかにした。
ポリフルオレンビニレンがなぜ固体中でらせん構造の途中にターン構造が発生するのか,詳しいメカニズムはまだわかっておらず,また,折りたたみ構造の形成がどの程度の一般性を持つのか未だわからないという。これらの視点から,鎖の化学構造の変種を合成し,実験研究と理論研究を組み合わせた検討を続けている。
これまでの高分子の高次構造研究の対象は,ほぼ,らせん構造を目的とするものに限られており,さらに,らせんをできるだけ均一に単調に制御するために様々な手法が開発されており,研ぎ澄まされた均一らせんが合成されている。
他方で,らせん以外の構造としては僅かにジグザグの折りたたみ構造,πスタック型構造等の例があるのみであり,複数の高次構造の組み合わせの例は報告されていなかった。らせんより複雑な高次構造を人工高分子に対して制御することにより,これまでにない機能や物性が発現する可能性があるという。
研究グループはこの成果が,人工高分子の高次構造研究の格段の発展の端緒となり得るものだとしている。