筑波大学の研究グループは,光学式3次元モーションキャプチャシステムとバーチャルモデリング技術を連携し,インステップキック,カーブキック,無回転キックを統合して,バイオメカニクス的,コーチング学的に分析し,各キック技術の類似点や相違点から,技術のキーファクターを検討した(ニュースリリース)。
これまで,サッカーのキック動作に関する研究では,インステップキック(ストレートキック),インサイドキック,カーブキック,無回転キック(ナックルキック)等を対象として,それぞれ独立した異なる技術として分析されてきた。
一方,ボールインパクト時の足部姿勢やインパクトポイント,スイング軌跡等を統合的に分析し,そのキック技術のキーファクター(コツ)を検討して示した研究はほとんどなかった。
研究では,光学式3Dモーションキャプチャシステムとバーチャルモデリング技術を連携させて,インステップキック,カーブキック,無回転キックのそれぞれにおける,ボールインパクト時の足部姿勢,インパクトポイントの位置,インパクト面方向やスイング方向,およびそれらが成す角度(迎え角)等を比較検討し,各キック技術の類似点や相違点を明らかにし,キックごとのキーファクターの解明を試みた。
実験では,協力者の足部の蹴り足踵に加えて母趾球,小趾球の3ヶ所に反射マーカーを貼付してバーチャルフットモデルを作成し,ボール表面には4点のマーカーを貼付してバーチャルボールモデルを作成した。
また,光学式3Dモーションキャプチャシステムのカメラ10台を用いてキック動作を記録するとともに,ボールの速度と回転数を計測した。各試技の計測時間は,ボールインパクト前の0.005秒から,足部とボールが離れるインパクト後0.01秒までの間とした。
分析の結果,骨盤のクローズドスタンスにより足部の迎え角(含む偏角)を生成してボールインパクトする技術が,カーブキックや無回転キック等の,ボールの横回転をコントロールするキック技術の重要なキーファクターの一つであると示唆された。
従来,ボールに回転をかけるカーブキックと,回転を抑える無回転キックは全く異なるキック技術として把握,説明されがちだったが,この研究により,回転をコントロールするインパクト運動のメカニズムで共通の働きが示され,その意味では,カーブキックと無回転キックは兄弟的技術であり,それぞれに特別な練習が必要なわけではないとも言えるという。
今回の手法により,他のさまざまなボールテクニックの検討・解明も期待される。研究グループは,選手の競技パフォーマンスの向上だけでなく,コーチング方法の改善にも役立つとしている。