NECは,宇宙空間で使用する光通信システムとして世界最高水準の通信速度である10Gb/sで動作する光通信機向けの技術開発を行ない,その成果を反映したプロトタイプを製造した(ニュースリリース)。
近年,観測衛星のセンサの高解像度化に伴い,軌道上で取得できるデータ量が増加している。このような状況の中,宇宙と地球との間のリアルタイム通信の速度向上手段として宇宙光通信技術に期待が集まっている。
宇宙光通信の実用化はこれまで欧州が先行し,2017年に欧州データ中継システム(EDRS)の中で1.06μm帯の信号光波長を用いた通信速度2Gb/sの静止衛星-低軌道衛星間通信の利用が始まった。
日本においては2020年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が光衛星間通信システム「LUCAS」を打ち上げている。将来の高速化を視野に,地上用の高速な光通信システムで普及している 1.55μm帯を使用し,静止軌道衛星-低軌道衛星間の2Gb/s光通信を実現するとしている。
光通信の宇宙システム利用についてはデータ中継システムに加え,静止軌道衛星ベースの汎用衛星通信放送システムの高速化(HTS(High Throughput Satellite)化)や,低周回軌道衛星ベースの衛星コンステレーションにおけるネットワーク構築手段として注目を集めている。
今回の技術開発は,HTSにおける衛星-地上間フィーダーリンクへの適用を念頭に置いたものであり,高速化に加えマルチーユーザRFリンクとの親和性を念頭に置いて進められているという。
今回開発した10Gb/s光通信機では「LUCAS」向け同様に1.55μm帯を使用した。静止軌道衛星-地上間,静止軌道衛星-低軌道衛星間に相当する約40,000kmの長距離システムへの適用に向け,最適な誤り訂正符号化技術を採用するなど,受信感度改善のための各種施策を適用し,回線成立条件の緩和に繋げたという。
静止軌道衛星は,搭載する各種装置に高い信頼性を必要とする。10Gb/sという超高速動作領域では開発段階において宇宙環境での動作保証がされた部品が少ないため,地上システム向け光部品及び高周波部品の宇宙システムでの適用を目的とした新たな選別手法,実装手法を開発した。
また,HTSにおけるマルチーユーザRFリンクとの親和性およびその先のネットワーク化,また地上通信システムとのシームレスな接続に向け,地上システムで標準的に使用されるイーサネットをインターフェースとして採用した。
開発品は2023年度打ち上げ予定の技術試験衛星9号機(ETS-9)に搭載され,宇宙環境での動作確認を行なう予定。同社では長期信頼性の一層の改善とともに,小型化・低コスト化を並行して進め,製品化につなげるとしている。