東京工業大学と関西学院大学は,鉛-硫黄結合を有する配位高分子からなる可視光応答型の固体光触媒を開発し,貴金属や希少金属を用いない触媒として,従来にない高効率でCO2からギ酸への変換を行なうことに成功した(ニュースリリース)。
光エネルギーを利用してCO2を有用な化学物質に変換する「人工光合成」の実施に向け,これまでさまざまな光触媒の研究が行なわれてきた。しかしその大半は,貴金属や希少金属を用いたもので,資源制約やコストの観点から,普遍元素からなる固体光触媒の開発が求められていた。
配位高分子は有望な光触媒材料となりうる可能性を持つ物質だが,実際にはこれまで配位高分子に可視光を吸収させ,配位高分子上で光触媒反応を駆動させることは困難だった。
そこで研究グループは,単体で可視光を吸収できる能力を持ちながら,これまでCO2変換の光触媒としては検討されてこなかった,硫黄と金属イオンの配位結合を構造内に有する配位高分子に注目した。
光伝導性を持つ配位高分子[Pb(tadt)]nは,金属イオンとしての鉛の周囲に硫黄等の配位子が連結した基本ユニットが硫黄の部分で無数に連結した構造を有する。研究ではこの配位高分子[Pb(tadt)]nをKGF-9と命名した。
KGF-9は可視光を吸収して,白金を助触媒として担持し,可視光を照射した際にわずかながら水素が生成するといった水素発生の光触媒として駆動する性質を持っていたことから,研究におけるCO2変換の光触媒候補としての可能性に注目した。
水熱合成の手法を用いて[Pb(tadt)]nを合成した。鉛イオン(Pb2+)を含む水溶液に配位子であるH2tadtを含むアセトン溶液を加え,100℃で48時間加熱することにより,[Pb(tadt)]nの構造を持つ光触媒KGF-9を合成した。
完成したKGF-9は,比較的大きな比表面積を有するものも少なくない配位高分子としては珍しく,比表面積が0.7m2/gと非常に小さい数値となったが,それにも関わらず500nm程度までの可視光に応答して,CO2をギ酸に高選択的かつ高効率に変換できることがわかった。
最適化した反応条件では,ギ酸の生成選択率は99%以上,見かけの量子収率は2.6%(照射波長400nm)に達した。この値は,単一成分のみ,かつ貴金属・希少金属を含まない光触媒の中で,現時点において世界最高値だという。
KGF-9は,普遍元素である鉛のみを金属元素として利用し,高い変換性能により,CO2を水素貯蔵に有用なギ酸に変換することができる。研究グループはこの光触媒が,脱炭素化へ向けた基盤技術として期待されるとしている。