東大ら,光触媒でレジオネラ菌を殺菌し機構を解明

東京大学とカルテックは,酸化チタン型光触媒技術により,水中のレジオネラ・ニューモフィラを1時間で99.9%殺菌することに成功し,そのメカニズムは細胞膜へのダメージであることを世界で初めて証明した(ニュースリリース)。

時に重篤な肺炎症状を引き起こすレジオネラ症の報告件数は検査法の開発・普及により増加傾向にあり,大きな社会問題となっている。レジオネラ症を引き起こすレジオネラ・ニューモフィラは加湿器や温泉,シャワー,空調設備の冷却塔,循環式の浴槽,給油設備,貯水槽などから感染することが報告されているが,人が直接接するこれらの装置や施設に多量の消毒剤を用いることは現実的ではない。

そこで,光触媒が注目される一方,レジオネラ・ニューモフィラにおける光触媒の不活化メカニズムは明らかになっておらず,レジオネラ・ニューモフィラを抗生物質や紫外線で処理した際に放出されることがあり,敗血症の原因となるエンドトキシンを分解できるかも不明だった。

研究グループは,、光触媒技術を水質浄化へと応用するための研究の一つとして,10cmシャーレに酸化チタン型光触媒を塗布したガラスを置き,リン酸緩衝液中のレジオネラ・ニューモフィラを30ml加えて撹拌しながら,405nmの発光ダイオード(LED)で光触媒反応を誘起することで,1時間で99.9%のレジオネラ・ニューモフィラを殺菌した。

透過型電子顕微鏡観察により,細胞膜へのダメージが殺菌へとつながったことを証明し,世界で始めてレジオネラ・ニューモフィラの光触媒による殺菌メカニズムを明らかにした。加えて,エンドトキシンの光触媒による分解もレジオネラ・ニューモフィラにおいて初めて明らかにした。

光触媒反応は紫外線のように人体への有害な作用がないことが知られている。そのため,人が実際に生活している環境や人が直接接する水環境への応用が可能であり,生活空間周辺の水質浄化に寄与するこが考えられる。加えて,光触媒反応は一般的な不活化方法では除去することが難しいエンドトキシンも分解が可能なことから,より安全で安心な環境の創出につながるとしている。

この成果は,レジオネラ症の感染防止のみならず,これまで光触媒による殺菌メカニズムが明らかとなっていない他の細菌の機序を示唆するもの。研究グループは,光触媒のより幅広いアプリケーションへの応用が期待され,今後,ますます光触媒技術の社会への貢献度が増すとしている。

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