九州大学とトヨタ自動車は,石油中の難脱硫物質であるベンゾチオフェン類やジベンゾチオフェン類を炭化水素に溶かした状態で紫外線を照射すると,酸化反応に続いて電子環状反応などが連続的におこり,2~16時間で完全に分解することを見出した(ニュースリリース)。
石油に不純物として含まれている硫黄分が多い状態で燃料として用いると,大量の硫黄酸化物が排出され環境汚染を引き起こすほか,自動車の排ガス浄化触媒の被毒劣化や,それを防ぐ空燃比運転による燃費性能,エネルギー効率の低下を招き,環境負荷となる。
一般的に,石油からの硫黄分の除去方法として水素化脱硫が確立されている。これは,製油所で大型の設備を用いて水素化反応により有機硫黄化合物を分解し,硫化水素として石油から除去する手法。
先進国では,これにより硫黄分が10ppm以下程度まで低減された燃料が使われているが,世界的には多量の硫黄分を含んだ燃料が流通している国や地域も多いのが現状だという。また,水素化脱硫には,高度な技術や大型設備,250~500℃の高温,数十~数百気圧の高圧が必要で,行なえる場所も製油所などに限定されている。
脱硫が不十分な燃料には,難脱硫性物質として知られているベンゾチオフェン類(BT類),ジベンゾチオフェン類(DBT類)が主に残っていることが知られている。今回,これらBT類,DBT類を0.54mmol/L(約100ppm)の濃度で炭化水素に溶かした溶液を石英セルにいれ,小型のUVランプ(8W,254nm)で紫外線照射を行なったところ,16時間以内に全ての硫黄化合物が 100%分解するのを確認した。
水素化脱硫では,アルキル基の置換によって反応が遅くなり,4,6-ジメチルジベンゾチオフェン(4,6-DMDBT)は最も脱硫が難しい化合物とされているが,今回の手法では,逆に置換基があると早く分解する。分解に伴って生じる黄色の沈殿物をろ過して単離し,分析を行ない,硫黄の単体が定量的に(ほぼ100%)生成していることを確認した。
また,重水素標識実験により,ジベンゾチオフェンの炭化水素部分の分解物の一部としてベンゼンを検出している。さらに,分子軌道計算により反応機構も提唱した。
水素化脱硫以外の方法としては,活性炭などを使う吸着脱硫法などの研究も行なわれているが,今回の紫外線照射による手法では,硫黄単体を不溶性の固体に変換できるのも特徴のひとつ。触媒や吸着剤の交換も不要で,小型の装置により低電力で実施できるため,オンサイトや発展途上国などで低設備投資の脱硫法として利用できる可能性もある。
研究グループは,今後の課題として,析出した硫黄単体粉末の装置に応じた回収法や,紫外線を吸収する多量の芳香族化合物が混入している場合の対策などがあるとしている。