東大,光反射特性から水田の分布変化を地図化

東京大学の研究グループは,35年におよぶ全国の水田分布の変遷を高解像度(30m四方)で地図化し,その地図を閲覧できるアプリtambomaps.app(https://luiscartor.shinyapps.io/tambomaps/)を作成し公開した(ニュースリリース)。

温暖化による異常気象の増加や農業人口の減少が進む中,水田の分布は時々刻々と変化しているが,その地図化は困難だった。

Landsatなどの衛星画像は,こうした地表の急速な変化を比較的高い解像度で広域にわたって記録しているが,衛星画像を用いて作成された数10m解像度の水田の広域地図は,雲の被覆などによるデータ欠損が多く,世界的にみても2000年代以前の地図はなかった。

加えて,近年を対象とした場合はデータ量が多すぎて処理が困難で,データの一部のみを利用するなどの対策がとられており,蓄積されている画像情報を充分に利用できていなかった。

研究グループは,水田を識別するために,水田の入水による地表面の光反射特性の季節変化に注目した。これには,1年を通した光特性の変化パターンを把握する必要となるだけでなく,耕作時期の地域差が顕著なため特定の場所のデータ欠損にも取り組む必要性がある。こうした問題は,衛星データのより少ない過去ほど深刻なものになる。

そこで研究では,Landsatデータの最小単位であるピクセルごとに統計量(中央値,パーセンタイルなど)を推定し,それらの値を基に地図化を行なう新しい手法を用いた。これによって,欠損の多い過去のデータの解析も可能になり,かつ,近年の大量のデータも要約しつつ地表面の光反射特性の季節変化を把握できるようになった。

加えて農業統計の農事暦データを県単位で組み込むことで,人の事情によって気候や地理と関係なく変化する水田の季節変化の地域差によって生じる水田の識別誤差を小さくした。

その結果,1985年以降の35年にわたる水田の地図化に成功し,全国ではこの期間で水田が23%減少した可能性があることなどを示した。具体的には,1985年から2019年までの区間を5年ごとに7つの年代に区切り,それぞれの水田分布を高解像度で推定した。

これにより,生物の分布調査データと対応させた生物多様性のトレンドの推定や,農業政策が水田の増減におよぼした影響の推定も可能になり,農業政策や生物多様性保全の国家戦略の策定にも貢献できるとしている。

公開したアプリでは,日本全国から市町村よりもさらにくわしい範囲までのさまざまなスケールで,推定した7つの時期の地図を見ることできるという。

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