東北大学,関西学院大学,高輝度光科学研究センター,物質・材料研究機構,大同特殊鋼は,大型放射光施設SPring-8で開発された硬X線磁気トモグラフィー(磁気CT)法を用いて,先端永久磁石材料内部の磁区構造の外部磁場に対する振舞いを3次元的に可視化することに成功した(ニュースリリース)。
磁性材料は磁場を加えた際に磁化の変化が追従しづらい磁気ヒステリシスを示す。永久磁石は,この磁気ヒステリシスが特に大きい性質を利用する。
磁気ヒステリシスの過程において磁化が反転する。途中の磁化がゼロとなる点(磁石内部でS極とN極が釣り合った状態)は保磁力と呼ばれ,高性能かつ強力な永久磁石材料ほど高い値を示す。保磁力は永久磁石の重要な指標だが,そのメカニズムは未解明だった。
永久磁石材料の内部では,磁区と呼ばれる数マイクロメートル以下の微細なS極とN極の分布があり,外部磁場を印加して磁気ヒステリシスに対する磁区構造の変化を観察することが,保磁力メカニズム解明に向けた最も直接的なアプローチとなる。
しかし,従来の磁区観察手法は磁石表面の磁区構造しか観測することが出来ず,磁石表面の欠陥層等の影響もあって,保磁力メカニズムの解明には至っていなかった。
研究グループは,大型放射光施設SPring-8で開発された硬X線磁気トモグラフィー(磁気CT)法を用いることで,先端永久磁石材料の磁気ヒステリシスに対応する磁石内部の磁区構造の変化を3次元で可視化することに挑戦した。
試料のネオジム焼結磁石の保磁力を高めるため,結晶粒子サイズが約1μmと,一般的なネオジム焼結磁石の約1/5程度にまで微細化し,Tb-Cu合金を用いた粒界拡散処理を施した結果,保磁力が一般的なネオジム磁石の約2倍の2.7テスラに達する超強力磁石を得た。
この磁石試料を一辺が18μmの角柱形状に加工し,SPring-8硬X線ビームラインBL39XUで磁気CT測定を実施した。試料を回転させながら磁気情報に関する2次元投影像を取得し,再構成計算により3次元の磁区構造を得た。
さらに,同じ試料の3次元の微細組織像(結晶粒子とそれを囲む物質からなる組織構造)を取得し,同一視野領域に対する磁区構造と微細組織像の3次元像を得ることに成功し,磁区構造の変化と微細組織との対応を詳細に調べることが可能となった。
測定の結果,磁石内部の磁区構造が磁気ヒステリシスに沿ってどのように変化するのかを3次元で可視化した。磁区形成の起点となる場所を特定するなど,今後の保磁力メカニズム解明につながる成果を得た。
研究グループは,実験・計算の両面から超高性能磁石材料の開発への貢献が見込まれる成果だとしている。