名古屋大学,広島大学,東海大学,京都大学は,損傷を受けたDNAを複製する(DNA損傷トレランス)機構には,色素性乾皮症の責任遺伝子産物であるDNAポリメラーゼ・イータなどによる「損傷乗り越えDNA合成」に加えて,ファンコニ貧血の責任遺伝子産物であるRFWD3が関わる経路が重要であることを明らかにした(ニュースリリース)。
ゲノムDNAに傷(DNA損傷)が生じると,DNA複製が阻害され,ゲノム不安定性の原因となり,細胞のがん化や細胞死につながる。このような事態を避けるため,細胞には「DNA修復」と,損傷を残したままDNAを複製する「DNA損傷トレランス」というしくみが備わっている。
DNA損傷トレランスには,損傷を乗り越えてDNA合成を行なうことのできる一群のDNAポリメラーゼが担う「損傷乗り越えDNA合成」と「未同定の経路」があり,ゲノム安定性制御に重要である一方で,がん細胞の抗がん剤耐性に寄与している。
DNA損傷トレランスの制御には,DNA上をスライドするリング状のタンパク質であるPCNAのモノユビキチン化が重要な役割を果たす。研究では,PCNAのユビキチン化に依存したDNA損傷トレランスは,色素性乾皮症バリアント群の責任遺伝子産物であるDNAポリメラーゼ・イータなどによる損傷乗り越えDNA合成と,ファンコニ貧血責任遺伝子産物であるRFWD3の関わる経路の2つの主な経路があることを示した。
紫外線損傷に対してはDNAポリメラーゼ・イータ,イルジンSに対してはDNAポリメラーゼ・カッパが損傷乗り越えDNA合成を担い,RFWD3はどちらの損傷についても重要な役割を担うことを示した。
RFWD3は先天性骨髄不全症候群のファンコニ貧血の責任遺伝子の一つであり,DNA二本鎖間の架橋損傷の修復に関わる。しかし,興味深いことに,RFWD3は鎖間架橋修復(いわゆる FANC経路)とは独立の異なるメカニズムにより,DNA損傷トレランスで重要な役割を担うことを明らかにした。
研究グループはこの成果がゲノム安定性を維持するしくみだけなく,抗がん剤耐性のメカニズムの解明及びその克服法の開発になることが期待されるとしている。