名古屋大学の研究グループは,がんの不均一性を克服しうる新技術として,がん局所に抗体薬剤複合体(Antibody drug conjugates:ADC)を集積させ,光でがんを破壊すると同時に抗がん薬を周囲に放出する光応答性“スマート武装抗体(Smart ADC)”を開発した(ニュースリリース)。
近年,がんの治療には抗体と薬物・光吸収体・核種などを付加したADCが広く使用されるようになってきている。がん標的抗原に対しての抗体を用いることで,がん部位のみを治療することができ副作用を抑えることができる利点がある。
近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)は,がん細胞が発現するタンパク質を特異的に認識する抗体と光感受性物質IR700の複合体を合成し,細胞表面の標的タンパク質に結合させた状態で 690nm付近の近赤外光を照射するとがん細胞が破壊される。
その一方で,固形がん表面の標的抗原に対してのADCによる治療には,その高い標的性によって固形がんの不均一性の一つである標的抗原の不均一発現により効果が限定されてしまうという臨床上の課題があった。
研究では,既に臨床で認可されて使用されている,非開裂のチオールリンカーにより抗体に抗がん剤が付加されているADCの1つであるT-DM1(カドサイラ)に光吸収体である「IR700」をさらに付加する簡便な方法で,近赤外光照射をすることで結合している非開裂の抗がん剤であるDM1の誘導体を放出させることに成功した。
研究グループは,この新技術を光応答性“スマート武装抗体(Smart ADC)”と,また,このメカニズムによる新たな抗腫瘍効果を光バイスタンダー効果(Photo-bystander effect)と名付けた。
「IR700」は光照射をすることで近赤外光線免疫療法の効果によって結合しているがん細胞を破砕することから,光応答性“スマート武装抗体(Smart ADC)”により抗体が結合しているがん細胞を光で破砕する。
それに引き続き,生き残っている結合していない周囲のがん細胞を光放出されたDM1の誘導体の抗がん作用で細胞死誘導できることから,がん標的抗原が不均一に発現している固形がんを根治させることに繋がるという。
研究で使用したADCはすでにがん治療に認可されて日常的に抗がん治療薬剤として使用されており,また近赤外光線免疫療法も限定承認を受けていることから,この治療方法は臨床応用が容易だとする。加えて,抗体を変えることで,あらゆる種類のがんへの応用を可能とすることから,研究グループは幅広くがん治療に貢献できるとしている。