東京工業大学の研究グループは,色素増感型光触媒を絶縁体酸化物とポリマーにより修飾することで,太陽光エネルギーによって水から水素を製造する光触媒反応の効率を従来の約100倍まで高めることに成功した(ニュースリリース)。
可視光を吸収する色素分子を光触媒表面に吸着し,色素が吸収した可視光エネルギーを利用する,色素増感型光触媒反応が研究されてきた。
2種類の光触媒と電子伝達剤を利用するZスキーム型光触媒システムにおいて,電子伝達剤は酸素生成系により還元されると同時に水素生成系において酸化されることで,2種類の光触媒の間の電子伝達を担う。
この反応系では,可視光によって励起された電子(e–)が水素生成に使われる前に,ルテニウム色素や電子伝達剤と反応してしまうこと(逆反応)があり,逆反応は水素生成効率の低下につながってしまう。研究グループは,ルテニウムとの逆反応を防ぐ手法を開発していたが,電子伝達剤との逆反応を防ぐ手法の開発には至っていなかった。
水素生成系が電子伝達剤を還元する逆反応(I3–+e–→I–+I2)は水素生成系とI3–が接近することで進行するため,互いが近づきづらい状況をつくることに着目した。具体的には,I3–との静電的な反発により接近を阻害できる,負に帯電したアニオン性ポリマーの修飾により,水分解効率の飛躍的な向上に成功した。
ルテニウム色素(Ru)を吸着した白金(Pt)担持酸化物ナノシートに対し,これまでに明らかにしていた逆電子移動抑制効果を持つ酸化アルミニウム(Al2O3)を修飾した水素生成光触媒(Ru/Al2O3/Pt/HCa2Nb3O10)を用い,ポリマー修飾の効果を調べた。
ポリマーとAl2O3を共修飾することで,無修飾のものから約100倍の活性に向上した。最適化したシステムでは,太陽エネルギーの水素への変換効率は0.12%,見かけの量子収率は4.1%(波長420nmでの値)を達成した。これらはいずれも,色素増感型光触媒を用いたZスキーム水分解システムの世界最高値だという。
また,ポリマーの修飾によって,水素生成系とI3–の反応だけでなくI–との反応も抑制されることがわかった。さらには,低濃度のI3–共存下に限り,逆反応の抑制によって光触媒活性が向上することを明らかにした。
この触媒は,弱い光を利用して水分解反応を駆動でき,太陽光の半分の強さの光を照射した際にも,太陽エネルギーの水素への変換効率は0.12%から低下しなかった。これらについて研究グループは,革新的な色素増感型光触媒の創出に大きく前進する成果だとしている。