千葉大ら,N型有機半導体の性能向上に新たな知見

千葉大学と筑波大学は,有機半導体の電子伝導特性の解明に不可欠となる伝導帯のエネルギーバンド構造を世界で初めて観測することに成功した(ニュースリリース)。

プラスチックを始めとする多くの有機物は電気を流さないが,有機半導体は電子や正孔が動いて電気を流すことのできる。半導体には,電子を流すN型特性と正孔が動くP型特性があるが,有機半導体の内部ではどのようにして電子や正孔が動くのか,長年にわたって研究されてきた。

その際,エネルギーバンド構造が最も重要となる。正孔が流れる価電子帯は1990 年代に初めて観測され,以後世界中で測定されている。2000年ごろから有機半導体のP型特性の解明が進んだことから,アモルファスシリコンを超える正孔の移動度をもつ有機半導体が実現している。一方N型特性を決定づける,電子の流れる伝導帯の測定は成功しておらず,電子の伝導機構の研究は進んでいない。

研究グループは,低エネルギー逆光電子分光法に改良を重ねて開発した角度分解低エネルギー逆光電子分光法を利用し,代表的な有機半導体であるペンタセンの伝導帯の測定に世界で初めて成功した。その結果,伝導帯のバンド幅は440meVと理論計算から予想される値620meVの70%しかないことが分かった。

しかも,試料をマイナス200℃まで冷やすと,価電子帯のバンド幅はほとんど変化しないのに対して,伝導帯のバンド幅は30meVも広がることが分かった。研究グループはこの実験結果をもとに,有機半導体を流れる電子がペンタセン分子を変形させてポーラロンという準粒子を作っていることを世界で初めて見出した。

加えて,ポーラロンが不完全に形成される様子が,明確に判明した。このポーラロンの新しい描像を基に,正孔と電子の移動度を時間依存波束拡散法を用いて計算したところ,電子の移動度が正孔に比べて1/10しかないという長年の謎を解くことに成功した。原因を探ったところ,電子のみが254cm-1という低振動数の分子振動を強く誘起して分子を変形させるために,移動度が低下していることが分かった。

有機半導体は,N型特性がP型特性に比べて極端に低いことが大きな課題であり,その原因は未解明だった。研究では,電子伝導機構解明のカギとなる伝導帯を初めて観測することに成功し,ポーラロンの形成とその形成過程を詳細に解明した。その結果から,低振動数の分子振動と電子の結合を小さくすれば,電子移動度が大きく向上したN型有機半導体を作れることがわかった。

研究グループは,これにより有機EL素子,有機レーザーや太陽電池などは正孔と電子のバランス(キャリアバランス)がとれるようになり,エネルギー効率が改善され,トランジスタでは,動作速度の速いコンプリメンタリ回路が実現するとしている。

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