理化学研究所(理研),北海道大学,高輝度光科学研究センターらは,一連のデータ処理プログラムを開発し,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を用いて,溶液中のナノ粒子の3次元観察を実証した(ニュースリリース)。
ナノ粒子の構造の観察には,電子顕微鏡やX線回折などが用いられるが,試料の結晶化や凍結などの操作が必要なため,自然に近い常温常圧の溶液環境下で観察する方法が望まれていた。
X線自由電子レーザー(XFEL)を用いれば,結晶化されていないナノ粒子の構造も観察できる。さらに,独自に開発した試料ホルダーMLEAを用いることで,常温常圧の溶液中で,試料を保持して測定することができる。
しかし,ナノ粒子に的確にXFELビームを照射することは困難で,ビームが試料に当たっていない測定データも多く含まれる。さらに,結晶化されていないナノ粒子からの信号は非常に弱く,ノイズとの区別も難しい。
そこで研究グループは,XFEL施設「SACLA」において,試料ホルダーMLEAを用いて,常温常圧下の溶液中の金ナノ粒子の単粒子解析を行なった。金属ナノ粒子は生体分子に比べて強い信号が得られ,XFELとMLEAを組み合わせた単粒子解析の基礎データの取得に適しているという。
溶液中の試料にXFELビームを照射して取得した多数の2次元パターン(XFEL回折パターン)の中には,XFELビームが試料に当たっていないものも多く含まれる。試料にビームが当たった(ヒットした)パターンを選別するために,統計学的な手法を用いて各測定パターンを数値的に特徴付け,ノイズパターンを判定した。
単粒子解析実験では,スライスマッチング法という計算アルゴリズムを開発し,各ヒットパターンから捉えた試料の向きとビーム強度を推定しながら,3次元での強度分布を組み立てた。この3次元強度分布から3次元ノイズ分布を除去することで,試料由来の3次元強度分布を推定した。
次に,推定した3次元強度分布から実空間での粒子の3次元構造の復元を試みた。その結果,ノイズを除去することで復元された金ナノ粒子から丸みが取れ,各面の平坦性も再現された。復元された粒子構造の解像度は,フーリエシェル相関(FSC)=0.5の指標で約5nmだった。
XFEL測定データから復元された粒子の3次元構造は,走査電子顕微鏡画像とよく一致した。走査電子顕微鏡では,ナノ粒子の方向を指定した観察が難しいが,XFELによる測定では,溶液中でランダムな方向を向いているナノ粒子の3次元構造の復元に成功した。
研究グループはこの成果について,溶液環境下での触媒金属ナノ粒子の変化など,MLEAを用いたXFEL単粒子解析にも応用できるとしている。