分子研,光電子運動量顕微鏡で原子1層の構造解明

著者: sugi

分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR)は,顕微機能を有する最新の光電子分光測定装置「光電子運動量顕微鏡」を開発し,グラファイト表面の局所的な電子状態を精密測定し,今まで気付かれていなかった微視的な電子状態を発見するとともに,原子1層のステップの可視化にも成功した(ニュースリリース)。

グラファイトは安価で導電性があり熱に強く環境負荷も小さいことから電池の電極材をはじめ幅広い分野で基礎材料として利用されている。その性能を十分に発揮させるには表面や端部の微細な性質を知り制御することが求められている。

これまでグラファイトの電子状態は,光電子分光法を用いて詳細に調べられてきた。しかし,本来グラファイトの表面には3回対称の構造が現れるはずだが,従来の測定では,6回対称であることが「常識」とされてきた。

研究グループでは最新の光電子分光測定装置「光電子運動量顕微鏡」を開発してきた。不均一試料のμm微小部分を拡大して観察できる顕微機能と,試料の物性を決定づける価電子のふるまい(2次元運動量)を可視化する機能を1つの装置で同時に実現する。

この装置は価電子と主要な軽元素・遷移元素の内殻準位の両方を励起できる高輝度放射光軟X線源に設置され,特に選択した数μmの微小領域からの価電子帯分散や組成分析の光電子分光測定が同時に行なえるので,組成・構造・電子状態がどのように物性・機能に結びついていくか研究することができるという。

今回,グラファイトの単結晶を真空中でへき開し,清浄な表面の電子状態を詳細に調べた。光電子運動量顕微鏡と軟X線を用い,運動量空間での全てのデータを取得したところ,特定の光エネルギーの軟X線で計測した場合(68eVと100eV)に明瞭な3回対称性の電子状態が現れた。

この測定では顕微鏡で微小領域を拡大し,最適なエネルギーの光で計測できたことで,従来知られていなかった表面での電子状態の対称性の破れを見出すことができ,この知見を基に原子1層のステップの可視化に成功した。また炭素原子がジグザグに配列する方向にステップの端部が現れることを明らかにした。

これまでよく研究されてきた物質でも,微視的な測定により,実用上で重要な表面や端部の特徴的な構造が観測できるようになり,物性の正確な理解が一段と進む。研究グループは,この技術が,表面・薄膜・配向分子・化合物結晶試料の原子レベルでの電子状態解析にも応用できることから,ナノ材料科学・量子デバイス工学を展開するうえで大きな貢献をするとしている。

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