岡山大学と東京都立大学は,閉じ込め空間を用いた新しい化学気相成長法により,原子レベルに薄い半導体材料(遷移金属ダイカルコゲナイド,TMDC:Transition Metal Dichalcogenide)の大面積・高品質合成に成功した(ニュースリリース)。
層状物質で,単層が原子3個分の厚みをもつ半導体の遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)は,単層でのみ発光特性をもつ直接遷移型半導体になる。単層のTMDCは優れた機械的柔軟性,光学特性,電気特性を持ち合わせ,次世代の光電子デバイスへの応用が期待されている。
単層のTMDCを得る方法として,化学気相成長(CVD)法がある。しかし,これまでの固体原料を用いたCVD法では,得られるTMDCの結晶サイズが小さく結晶性が低かった。
研究では,TMDCの一種であるWS2の合成を行なった。安定したTMDCの成長環境を実現するため,2枚の合成基板を重ね合わせて構築したマイクロリアクタを用いて,非常に狭い閉じ込め空間を作り出し,外部からの原料供給が制限される成長環境を実現した。
WS2を構成する元素として用いられるタングステンの原料として,高温で液体状態になる金属塩(Na2WO4)を採用し,あらかじめ成長基板に塗布することで,マイクロリアクタ内に閉じ込めた。WS2を構成する元素として用いられる硫黄の原料として有機硫黄を採用し,厳密に供給量を制御した。
これらによって,単層WS2の合成を高精度で制御することに成功し,従来のCVD法では数10µm程の結晶しか得られなかったのに対し,500µmを超える非常に大きな完全単層のWS2結晶を得た。
また,条件を整えることで1mmを超える巨大な結晶も得た。さらに,2種類の金属塩(Na2WO4とNa2MoO4)を組み合わせることによって,面内で2種類のTMDC(WS2とMoS2)が接合した面内ヘテロ構造の合成も可能にした。
この合成方法における,WS2の成長メカニズムや,結晶性が低いTMDCでは,WS2の発光(フォトルミネッセンス,PL)のピークが低エネルギー(長波長)側にシフトし,半値幅が大きくなり,発光強度も弱くなること,最適な合成温度(820℃)では高い品質を示すPL特性が得られることを明らかにした。
合成したWS2を用いて電界効果トランジスタ(FET)を作製した結果,電子伝導型(n型)のFETとして良好に動作した。また,光照射下での電流応答を観測したところ,WS2が吸収する特定の波長に対し,明瞭に応答した。
TMDCは次世代のウェアラブルなセンサーや発光素子,発電素子などへの応用が期待されている。研究グループは,この成果によって,IoE社会を支える次世代フレキシブルデバイスの実現に近づくことが期待できるとしている。