名古屋大学とMipoxは,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにおいて,半導体基板を製造する際に発生する結晶欠陥(転位)をカウントするシステムの構築と,ウエハー全体の転位やひずみの分布を直感的に分かりやすく表示するヒートマップ表示機能の開発に成功した(ニュースリリース)。
開発したのは,非破壊・低コストで半導体結晶ウエハー内部の結晶欠陥(転位)を可視化し,製品の耐圧特性を劣化させる欠陥(キラー欠陥)を自動検査するシステム。炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのパワー半導体デバイスは,電力変換器の効率向上や小型化を実現できると期待されているが,パワー半導体基板を製造する際には多くの転位が含まれることがある。
これらはキラー欠陥となり得るため,検査によって欠陥の領域や密度を的確に把握する必要がある。製品品質の確保とコストの観点から,高精度・高効率の欠陥検査技術が求められているが,従来の技術では,転位部分を機械的に抽出できず,観察された像の定量的な評価が困難だった。
今回,グレースケールのコントラストで形成された転位の位置情報を抽出して計数し,転位の数密度や分布の様子をカラースケールで可視化し定量化することが可能になった。
グレースケールで観察される像の中から転位の位置を特定しカウントするシステムは,偏光に伴う結晶特有の複屈折特性(レタデーション)を利用した偏光観察の技術とMipox独自のリアルタイム位相演算処理を用いた。従来技術では背景と転位のコントラストの切り分けが困難だったが,独自の画像処理フィルターを開発し,貫通転位が形成するコントラストを選択的に抽出することを可能にした。
また,ウエハー全体の転位の数密度やひずみの分布をカラースケールで可視化するヒートマップ表示機能は,半導体ウエハーや単結晶試料の内部の転位の観察,ウエハー内部のひずみの観察,エピウエハー内部の転位の観察へ活用できるという。
Mipoxは同社の製品であるSiC結晶転位高感度可視化装置「XS-1 Sirius」にこれら二つの成果をベースとした機能(転位カウント・ヒートマップ表示)を実装した。これにより,ウエハーに含まれる転位の数を95%以上の検出率で測定することに成功した。
また,これらの新機能を撮像とマルチタスクで処理させることで検査時間を短縮し,ウエハーの全面検査において3インチウエハーで約4分,4インチで約7分,6インチ約15分という高速検査能力を実現したという。研究グループは,この成果がパワー半導体ウエハーの検査コストを低減するとともに,利便性や業務効率の向上に大きく貢献するとしている。