九州工業大学の研究グループは,準結晶における強磁性秩序相における磁気ダイナミクスを理論的に解明した。また,準結晶における非相反磁気励起を発見し,近似結晶における非相反マグノンも発見した(ニュースリリース)。
鉄の磁石が示す強磁性のように,電子の磁気モーメントが結晶全体にわたって秩序化する磁気長距離秩序が形成されることは周期結晶ではよく知られている。磁気秩序相における励起状態はマグノンとよばれる量子化された波として振る舞うこともよく知られている。
しかしながら,周期性をもたない原子配列をもつ3次元準結晶において磁気長距離秩序が存在するか否かは長い間未解明であり,どのような磁気励起を示すかはよくわかっていなかった。このような中,2021年に希土類原子のテルビウムを含む準結晶において強磁性長距離秩序が実験により発見され,磁気構造が理論計算により示された。
研究では,この磁気構造の強磁性秩序について理論計算を行なった結果,波数(横軸)-エネルギー(縦軸)空間において磁気励起を初めて明らかにした。この磁気励起は波の進行方向を逆にするとエネルギーが異なる,非相反磁気励起を示すことも見出した。
興味深いことに,この磁気励起は1/1近似結晶におけるマグノンの励起エネルギーの波数依存性と対応していることもわかった。さらに,マグノン励起エネルギーとその逆方向の波数の励起エネルギーは異なることを見出した。すなわち,このマグノンは伝搬する方向によってエネルギーが異なる非相反性をもつこともわかった。
この発見は,3次元準結晶の物性の研究にブレイクスルーをもたらすものと期待される。特に,この研究により理論的に示された磁気ダイナミクスを実験により観測する研究の進展が期待されるとする。
研究グループは,今後,準結晶の磁性およびダイナミクスの研究が活発に行なわれ,新しい磁性や磁気ダイナミクスの解明,ならびに物質の新機能の開拓につながることも期待されるとしている。