東工大ら,光で2次元物質にスピン流整流効果発現

東京工業大学と千葉大学は,原子が平面状に2次元的に並んだ物質(2次元物質)の一種で磁性絶縁体(電気を流さない磁石)であるCrハライド系の物質にギガヘルツ帯からテラヘルツ帯の電磁波を印加することで,スピン流の整流効果が生じることを理論的に明らかにした(ニュースリリース)。

空間反転対称性の破れた物質は,pn接合のような接合を作らなくても光起電効果を⽰すことが知られている。この現象はバルク光起電効果と呼ばれ,ペロブスカイト酸化物などの物質でみられている。特にバルク光起電効果の⼀種であるシフト電流は,pn接合によるこれまでの太陽電池の性能限界を超える可能性があることから,近年精⼒的な研究が続けられている。

バルクの磁性絶縁体におけるスピン流の整流効果は2019年に研究グループによって提案されたが,候補物質はこれまで知られていなかった。研究では空間反転対称性の破れた磁性絶縁体であるCrハライド系を対象として,光誘起スピン流の発⽣条件等を理論的に解析した。

Crハライド系物質では磁気モーメントをもつマグノンという粒⼦が現れる。理論模型の電磁波印加時の振る舞いを理論的に調べるために,光による直流スピン流の整流現象について検討した。

その結果,ギガヘルツからテラヘルツ領域の周波数をもつ電磁波を印加することで,マグノンが特定の⽅向に流れ,直流スピン流の整流効果が⽣じることを発⾒した。また,この整流効果によって⽣じるスピン流の強度がこれまでの研究より約2桁⼤きくなることを⽰した。

この光誘起スピン流は,物質の中⼼から両端に向けて流れる拡散的なスピン流とは定性的に異なる振る舞いを⽰す。また,照射電磁波の磁場成分と磁⽯の磁気モーメントを垂直にした直線偏光で⽣じる。

直線偏光で整流できることは,円偏光の場合と異なり,特別に電磁波の偏光を調整する必要がないことを意味する。この整流的な振る舞いと偏光の調整が不要な点は太陽電池と共通しており,この整流現象は太陽電池のスピン流版ともいえるとした。

これまで光によって磁性体を制御する場合,特に,マグノンのスピン流の⽣成には,光の⾓運動量をマグノンに渡すために円偏光が必要とされてきた。テラヘルツ帯域のレーザーは円偏光の⽣成は難しいため,実証における技術的なハードルが低いことを⽰している。

光誘起スピン流は,ギガヘルツ帯からテラヘルツ帯の光信号を磁気的信号に変換する現象であり<この現象を⽤いることで光と磁気の間の直接的な情報交換が可能となる。研究グループは今回,候補物質とより⼤きな応答を実現する⽅法が明らかとなったことで,光磁気技術における新規機能性デバイスの実現に近付いたとしている。

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