日本電信電話(NTT)と北海道大学は,異なる種類(モード)の信号光間で発生する光の強度差を,低損失・広帯域に可変補償する小型光デバイスを世界で初めて実証した(ニュースリリース)。
モード多重伝送は,モード間で光の減衰量がわずかに異なるため,減衰量の偏差が伝送距離とともに累積する。また,光増幅器中ではモード間の増幅効率が異なるため,増幅出力にもモード間の偏差が生じてしまう。
一方,モード多重伝送路の出力端では,複数のモードが混ざり合って出力されるため,入力信号の情報を復調する電気信号処理が必要だが,信号処理の計算量はモード数と特性偏差に応じて指数関数的に増大してしまう。
また,モード多重伝送の実現には,光伝送路におけるモード間特性偏差を可変制御する技術が欠かせないが,これまでに小型・低損失・可変性を満たす技術はなかった。
今回,小型・量産性に優れるPLC(平面光波回路)技術を活用し,①2モード中の特定モードに対する減衰量の可変制御と,②多モード光増幅器で発生する増幅効率差の広帯域補償を世界で初めて実証した。
①特定モード減衰量の可変制御
提案デバイスは,遅延線導波路の屈折率をヒーターで可変することで,特定の信号光の結合量(減衰量)を制御することができる。一方,入力時の光強度が低い信号光は主導波路を透過するだけなので,原理的に過剰な損失が発生しない。このため,提案デバイスは小型・低損失・可変性を同時に実現することができる。
50~170mWのヒーター電力で減衰量を最大2.3dBまで可変できた。光伝送路中の減衰量の偏差は,概ね1kmあたりで0.01dB以下と考えられるので,提案デバイス1台で200km超相当の光強度差を補償することができるとした。
② 増幅効率差の広帯域補償
1530~1565nmの波長帯域で2モードの光増幅を行なう光増幅器を用い,提案デバイスの有無による増幅効率差の変化を評価した。提案デバイスを用いない場合,増幅波長帯域の全域で 1.5dB以上の増幅効率差が発生した。また増幅効率差は,光増幅器の動作条件に応じて,最大3dBまで増大する。
一方,提案デバイスを用いることにより増幅効率の波長依存性を劣化させることなく,いずれの動作条件であっても増幅効率差を±0.5dB以下に低減できるとする。
この結果は,モード多重光伝送路の実現性を大きく前進させるもの。研究グループは,NTTが提唱するIOWNの実現には,空間モードを活用した光伝送路技術と光伝送技術の確立が不可欠だとし,今後も産学連携による研究開発を推進するとしている。