北大,量子光学で水のイオン伝導度を一桁以上向上

北海道大学の研究グループは,振動強結合と呼ばれる量子光学の原理を応用することにより,電解質水溶液のイオン伝導度を最大で一桁以上向上させることに成功した(ニュースリリース)。

イオンが溶けている電解質水溶液は,水の電気分解,電池などにおいて用いられるが,イオン伝導度を向上することができれば,エネルギー損失の少ない有効な電気化学エネルギー変換が可能となる。通常のイオンは分子の並進拡散によって動くが,特に水溶液中でのプロトン伝導においてはプロトンをバケツリレーのように受け渡しながら動いていくことが知られている。

過去の多くの研究から,電解質水溶液においてはイオンが動くときの動的水素結合ネットワークの存在が重要であると分かっている。しかしながら,一般に水の動的物性は制御できないため,イオン伝導度の向上は不可能だった。

一方で,量子光学の分野においては,振動強結合と呼ばれる分子の物性改革手法が知られつつある。これまでの研究で,化学反応の制御や結晶化過程の制御などが可能とされており,分子間の相関や基底状態でのポテンシャルエネルギーを変化させることが提案されてきた。

そこで研究グループは,イオンのとりまく水分子の動的物性を制御可能とする振動強結合を用いることにより,電解質水溶液におけるイオン伝導度の向上が見込めると考えた。

研究グループは,2枚の反射ミラーを向かい合わせた共振器を作成し,共振器内部の分光計測,電気化学計測を可能とするセルを開発した。反射ミラー間の厚さを数μm程度で制御することにより,共振器のエネルギーを分子振動のエネルギーと一致させ,振動強結合状態にすることに成功した。

共振器のエネルギーを変化させ,水が振動強結合状態にあるときにはイオン伝導度が向上し,誘電率も変化することが電気化学計測から示された。また,観測された挙動は電解質水溶液中のイオンの種類に依存し,塩化カリウム水溶液の場合には数倍程度のイオン伝導度の変調が観測されたのに対して,プロトン伝導を示す過塩素酸水溶液においては一桁以上ものプロトン伝導度の向上が観測された。

さらに,今回観測されたイオン伝導度の増大は振動強結合の結合状態に強く依存していることが明らかとなった。振動強結合状態では,分子間で量子相関を誘起することにより,動的水和構造の変化が協同的なプロトン移動を可能とし,従来のイオン伝導度からの飛躍的な向上を可能にしたという。

この成果は,水の動的物性を制御可能とするものであり,電気化学エネルギー変換における抜本的な原理革新を可能とする発見。研究グループは,この分子との共振特性を有する構造を利用することで,高効率なエネルギー変換デバイスの創出が期待できるとしている。

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