京都⼤学の研究グループは,⾦属を含まないハライドペロブスカイト物質MDABCO-NH4I3において,強誘電性と可視光発光が同時に発現し,さらにこれらの特性が互いに相関していることを発⾒した(ニュースリリース)。
ペロブスカイト物質は優れた発光特性と強誘電性を⽰し,これらの性質は他の物質群を凌駕する。発光と強誘電性が共存・相関するペロブスカイト物質を⾒つけることができれば,新しいタイプの光電機能やデバイス応⽤につながることが期待される。
研究グループは,2018年に合成が報告された強誘電ハライドペロブスカイト物質MDABCO-NH4I3に着⽬し,複数の光学測定を組み合わせた研究を⾏なった。⾼品質な単結晶試料を⽤意し,第⼆⾼調波発⽣(SHG)と発光の応答を計測した。
まず,MDABCO-NH4I3が強いSHGおよび寿命の⻑いオレンジ⾊の発光を室温で⽰すことを観測した。SHGは物質の空間反転対称性の破れに起因しており,発⽣したSHG光の偏光状態を調べることで強誘電分極⽅向に関する情報を得ることができる。実際に,強誘電―常誘電相転移温度でSHG信号が消失することを確認した。
次に,偏光分解SHG測定と偏光分解発光測定を組み合わせることで,強誘電特性と発光特性の関係を調べたところ,MDABCO-NH4I3において励起光の偏光⽅向に応じた異⽅的なSHG信号を観測した。この結果を⽤いることで,結晶⽅位とそれと関連する強誘電分極⽅向を決定できる。
さらに,SHG測定を⾏なったのと同じ試料位置で発光の励起光偏光依存性を測定した結果,発光強度にも強い異⽅性が現れることを発⾒した。複数の試料に対して光学測定と解析を⾏なうことで,強い発光が現れる⽅向が強誘電分極⽅向とほとんど平⾏であることを突き⽌めた。これらの結果は,⼀つの物質中で発光と強誘電性が共存し,それらが互いに相関していることを⽰すという。
これらのユニークな特性が,有害な元素や希少な⾦属を⽤いないMDABCO-NH4I3で得られたことは特筆すべき成果だとする。また,この物質は100℃以下の低温溶液プロセスで作製できるため,フレキシブルな形状のデバイスなど,さまざまな素⼦構造での利⽤が期待されるという。
強誘電体の性質を利⽤することで,不揮発性メモリーをつくることができる。研究グループは,強誘電性と発光特性が共存・相関するMDABCO-NH4I3を⽤いれば,光によるメモリー情報の⾮接触な読み出しなどの応⽤が期待されるとしている。