物質・材料研究機構(NIMS),北海道大学,広島大学は,酸化チタン(化粧品や日焼け止めクリームのUV防止材)の代替品として,紫外線(UV)を吸収する無色の二核鉄イオンを多孔質シリカ(二酸化ケイ素)で安定化させた酸化鉄系材料を開発した(ニュースリリース)。
酸化チタン,特にナノメーターサイズの粒子は,白色顔料やUV防止材,光触媒などとして広く利用されているものの,2020年にEUによって(ナノサイズによる細胞毒性等に起因する)発がん分類区分2に指定されたのを皮切りに,フランスでは食品利用が禁止されるなど,その利用・製造が制限されつつある。
酸化チタン代替材料として,最も安価で最も生体親和性に優れる酸化物半導体,酸化鉄/水酸化鉄が候補となる。しかし酸化鉄はエネルギーギャップ(バンドギャップ)が狭いため主に可視光を吸収するので,白色顔料やUV吸収材には利用できない。
対照的に二核鉄イオンは酸化鉄に比べてエネルギーギャップが拡いためUVを吸収し(無色),酸化チタン以上の光触媒活性を示す。しかし二核の鉄イオンは極めて不安定であり,二核鉄イオンの状態で縮合を止めるには安定性や安全性の面で課題が残っていた。
今回研究グループは,市販の多孔質シリカと単核鉄イオン([Fe(H2O)6]3+)溶液とを混合することで,UVを吸収しつつ有害な光触媒作用が低減された白色粉体を得る事に成功した。
また同粉末を天然オイルと混ぜペーストを作成し日焼け止めクリームとしての性能も評価したところ,現行の酸化チタンに匹敵する性能と安定性を示すことも分かった。こうした機能が多孔質シリカの細孔に固定された二核鉄イオンに起因することも構造解析により明らかとなった。
二核鉄イオンは,酵素やタンパク質など天然には遍在するものの,人工的に合成できた例は限られていた。しかもそういった従来研究では,生成物の安全性や安定性に懸念があり,また生成物が着色するといった課題があった。
安全性や安定性の懸念がなく(少なく),二核鉄イオンがフィットし(周りに反応物がアクセスできないので)光触媒作用を低減できる微細構造を有する多孔質シリカを見つけられたことが,今回の発見の鍵となったという。
この材料の安全性に関しては今後詳細な検討が必要だが,用いた多孔質シリカが体内の組織を通過し難い数マイクロメーターの粒子のため,現行の酸化チタンナノ粒子で懸念される細胞毒性は示さないことが期待できるとする。
今回,開発した粉体は,UV吸収材のみならず,光触媒としても期待できる。研究グループは,酸化チタンの全用途の代替や,酸化チタンでは対応できなかった用途の開拓を目指すとしている。