千葉工業大学,岡山理科大学,大阪大学,海洋研究開発機構,東京大学,東京工業大学,高知大学,広島大学は,衝撃変成組織を調べる実験手法において先行研究の弱点を克服し,効率のよいデータ蓄積を可能にする新しい実験手法を開発した(ニュースリリース)。
隕石の多くは「歪んだ鉱物組織」を含んでいる。これは「衝撃変成組織」と呼ばれ,その隕石が元となる天体(母天体)上で過去に経験した天体衝突の証拠となる。天体衝突の条件と生成される衝撃変成組織の関係から,過去の太陽系でどんな天体衝突が起きていたのかを知ることができるが,そのためには衝撃変成組織を読み解くための「辞書」が必要となる。
2020年末にはやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの岩石は水と有機物を多く含む炭素質隕石に近く,過去に鉱物と水の反応(水質変成)を受けていることがわかってきたという。現状では水質変成を受けた鉱物の衝撃変成組織についてはあまり調べられていない。
水質変成の結果として生成される鉱物の一つに方解石(炭酸カルシウム)がある。方解石はリュウグウ試料中に含まれていた。方解石の衝撃変成についてはごく弱い衝撃(5千気圧未満),もしくは非常に強い衝撃(20万気圧)についてのみ知られていた。
その中間の衝撃データを取得し,方解石についての辞書の記載を完成させるには,提案されている衝撃変成組織を調べる実験手法はいずれも,時間的にも費用的にもコストが高く,多くの実験データを短期間で取得することは困難だった。
そこで研究グループは,良質な大理石(方解石のかたまり)を用いて衝撃実験を実施し,回収試料を偏光顕微鏡,X線マイクロCT,微小部X線回折法を用いて詳細に観察した。大理石が経験した衝撃圧力は衝突実験と同条件で数値衝突計算を実施し推定した。
その結果,3万気圧を超える衝撃圧力が加わった場合に方解石粒子の大部分が「波状消光」と呼ばれる不均質な光学的特徴を示すことを確かめた。更に典型的な隕石母天体の衝突破壊を想定した数値衝突計算結果を解析した。この計算では直径100kmの母天体に直径20kmの天体が秒速5kmで衝突させ3万気圧を超える衝撃圧力が加わる領域の広さを調べた。
その結果,波状消光を示すような粒子が発生する領域は,衝突点からおよそ30km程度の領域に限られることがわかった。仮にリュウグウ試料中の方解石が波状消光を示した場合,地球に持ち帰られた試料の少なくとも一部はリュウグウ母天体の30kmより浅いところにあった可能性が高いといえる。
研究グループは,実験で得られた知見を,リュウグウ試料の分析結果を解釈する際に提供するとしている。