高輝度光科学研究センター(JASRI),大阪大学,名古屋大学,物質・材料研究機構は,スピントロニクス材料として期待されるスピンギャップレス半導体であるマンガン・コバルト・アルミニウム合金薄膜(三元系ホイスラー合金薄膜)を,3つの代表的な成膜技術を用いて作製し,大型放射光施設SPring-8を用いて,その性能と構造との関係を網羅的に評価することに成功した(ニュースリリース)。
スピンギャップレス半導体は,磁性体であるため上向きと下向きのスピンを有するそれぞれの電子バンドが交換分裂しているのに加えて,双方のスピンバンドにエネルギーギャップを有する特殊な電子構造を持ち,省エネルギーな不揮発性メモリ等への応用が期待される。
これまでスピンギャップレス半導体研究では,周期表で近接するマンガンとコバルトが入れ替わるなどの欠陥構造の評価は,実験室ベースのX線源では限界があるため,原子レベルの結晶構造について大きな注意は払われてこなかった。
今回,研究グループは,マンガン・コバルト・アルミニウム合金の物性と結晶構造の関係をより深く理解するために,真空スパッタリング法,イオンビームアシストスパッタ法,分子線エピタキシー法の3つの代表的な成膜手法で同合金薄膜を作製し,物性,微細構造および,その結晶構造を詳細に調べた。
このような規則合金の原子レベルの結晶構造とその欠陥構造を調べるには,放射光の波長選択性を活用した異常分散X線回折が必須となる。異常分散X線回折であれば,周期表で近接した元素であっても特定の元素に注目した解析を行なうことができる。放射光実験はSPring-8のビームラインBL13XUで行なった。
その結果,3つの試料はすべてスピンギャップレス半導体としての特性を満たしていたが,微細構造および結晶構造は大きく異なることがわかり,複雑な三元系ホイスラー規則合金薄膜について,材料性能に直結する規則合金の規則性の定量化を実現した。
このことから,過去のスピンギャップレス半導体研究では見過ごされてきた近接元素の原子規則状態を明らかにすることが,真のスピンギャップレス半導体的な電子構造を実現し,これによってもたらされる輸送特性を実用デバイスに展開するために極めて重要だという事実が明らかとなった。これは放射光の波長選択性を活用しなければ得られなかった成果だとする。
今回の方法によれば,ホイスラー合金をはじめ新しい機能性をもつ様々な規則合金材料の設計・評価が可能となり,スピントロニクス材料開発の指針を得ることができる。研究グループは,実デバイス材料への応用が加速するとしている。