大阪公立大学の研究グループは,光に安定なペンタセン誘導体であるTIPS-ペンタセンの100倍以上の光耐久性を有する新たなペンタセン誘導体の開発に成功し,関西学院大学と,この系の超高速励起状態ダイナミクスを明らかにした(ニュースリリース)。
ペンタセンやその誘導体は,それらの高い電荷(ホール)の移動度のため,有機半導体の代表格として,基礎と応用の両面から多くの研究がなされてきた。特に,電界効果トランジスタ等の半導体デバイスへの応用が期待されている。
また,有機半導体はインクジェットプリンティングによる安価な素子作成が期待でき,かつ金属を用いないので環境負荷も少ない利点がある。しかし,ペンタセン等の有機半導体の骨格は,可視光の下では酸素分子と容易に反応してしまい,有用な特性を消失するという問題点があり,実用化に向けて光耐久性の向上が課題となっていた。
研究グループは,ラジカル付加により,光に不安定なペンタセンの光耐久性を著しく高められることを報告し,その機構がラジカル付加により引き起こされる超高速の励起状態の失活によることを明らかにしてきた。
研究では,分子の平面性を高めて,π電子の共役を強めることにより,以前に報告した分子やTIPS-ペンタセンを遥かに凌駕する光耐久性を実現した。また,同時にその著しい光耐久性の機構を解明する目的で,フェムト秒パルスレーザーを用いた超高速の過渡吸収測定を実施し,この系の特異な励起状態ダイナミクスを明らかにした。
この系のペンタセン部位に着目すると,重原子を含まない純粋な有機物において,これまで達成されたことが無いほどの超高速(百フェムト秒=10-13秒)で系間交差が起こることが明らかになった。さらに,それに続く基底状態への超高速失活が,百ピコ秒(10-10秒)程度の時間内で起こることも観測した。
研究グループは,この成果が,ペンタセン誘導体や有機半導体分野に限らず,光に不安定な物質を扱うさまざまな分野で,物質を安定化して開発する手法として応用されることが期待されるとしている。