東工大ら,<100fsで観測可能な小型電子線装置開発

東京工業大学,筑波大学,名古屋大学は共同で,光励起で起きる10兆分の1秒(100fs)以下の構造変化を観測するテーブルトップサイズ電子線回折装置を世界で初めて開発した(ニュースリリース)。

光励起で起きる原子分子レベルでの変化の最初の部分は,10兆分の1秒以下で起きていることが推測されている。それを観測するためには,構造を観測するX線や電子線装置にこの時間スケールより短いパルス特性を持たせることが必要になる。

しかし,従来の技術では,巨大加速器を用いる方法以外に,①10兆分の1秒以下というきわめて短いパルス幅を持つX線や電子線を発生させる方法がなく,②従来の加速器では試料損傷によって対応できる物質が限定される,③加速器は巨大なため,世界中の多くの研究室で行なわれている材料開発に対応できない,といった問題があった。

研究グループは,②と③について,試料損傷のほとんどないテーブルトップサイズの装置の開発に成功している。今回,電子線のパルス幅圧縮の問題を解決し,光励起で起きる100fs以下の変化を観測する,テーブルトップサイズで試料損傷もほとんどない電子線回折装置を開発した。

超短パルスレーザーで発生させる電子線パルスは,光電面からの放出後,ただちに電子間の反発力でパルス幅が1兆分の1秒以上に広がってしまう。そのため,外部から加える電場を使って,広がろうとするパルスの前半部の速度を抑え,逆に後半部は加速することが必要となる。

研究グループは,シミュレーション計算結果などをもとに,約30cm角に収まる超小型加速器技術を利用する方法を検討した。具体的には,この超小型加速器の温度を0.01℃の正確さで制御しつつ,そこに入力する電子パルス制御用RF電磁波の強度と位相を,電子線パルスの形に合うように精密に制御することを目指した。

そこで5G技術を活用し,超高精度RF発振器の電磁波によって,レーザーと超小型加速器の双方を精密制御する装置を開発し,パルス幅10兆分の1秒以下(実際には75fs以下程度と推定)のパルス電子線発生に成功した。

この装置で,光電デバイス材料としても活用されている,典型的な半導体であるSiの単結晶を対象とした観測を行なった。Si単結晶では,光学的に50fs以下程度の超高速構造変化が光励起で起きていると予測されている。観測では,構造変化が実際に予測通りの時間スケールで起きていることを初めて確認した。

研究グループはこの技術が今後,光メモリー,光エネルギー変換(人工光合成)など各種光デバイスの超高速化・高効率化対応材料開発に貢献することが期待されるとしている。

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