情報通信研究機構(NICT)は,可視光用の高効率な有機電気光学ポリマー(EOポリマー)光変調器を開発した(ニュースリリース)。
NICTは,LN(ニオブ酸リチウム)光変調器など従来技術よりも高速で低消費電力なEOポリマーを使った光変調器の開発に取り組んでいる。しかし,LN光変調器と比較して,EOポリマーを使った光変調器は,光通信に使われている近赤外光でしか利用できない。
一方,EOポリマー光変調器を応用させると,光ビームを高速に走査することができる。立体ディスプレーなど表示デバイスに使用するためには,可視光で利用できる必要があった。
研究では,近赤外光よりも短い波長である可視光で,吸収損失が小さく,高い電気光学係数を持つEOポリマーの開発に成功した。これは,正確な測定技術と,膨大な分子構造ライブラリに基づく分子設計により実現したもの。
可視光での吸収を抑えるようにEO分子の構造を短く曲がりにくく設計したことで,従来のEOポリマーよりも20,000分の1以下に吸収を小さくすることができ,可視光で利用できるようになったという。
研究グループは,この新規EOポリマーを用いて,マッハ・ツェンダー型干渉計構造を設計して,微細加工プロセスにより光変調器を作製した。可視光で動作するためには,従来の近赤外光での光変調器よりも導波路のサイズを小さくする必要があり,光が伝搬する導波路の幅が比較的大きくてもシングルモードが担保されるリッジ型導波路を採用した。これにより,精度の高い加工が必要であるものの,従来の微細加工プロセスを大幅に改良することなくこの成果を達成した。
出射光の変調動作を評価した結果,波長640nm(赤色)で,性能指数は0.52V・cmだった。これは,従来のEOポリマー光変調器の動作波長である近赤外光よりも,大幅に短い波長であり,性能指数は3分の1以下と非常に高効率(小型・低電圧)を実証した。
光変調器は,光の位相を制御することができ,これを応用させると光ビームを成形・走査する光フェーズドアレイを作製することができる。可視光用光フェーズドアレイは,立体ディスプレーなどの表示デバイスへの応用展開が可能になり,小型軽量で高効率な表示デバイスは,スマートグラスなどの次世代ウェアラブル端末への搭載が期待できる。さらに,可視光で動作できると,安価なシリコン系の光検出器が使用でき,システム全体のコストダウンにつながる。
研究グループは今後,この可視光用EOポリマーを用いて光フェーズドアレイを作製し,表示デバイス実現に取り組む。さらに,緑色・青色用のEOポリマーの開発を行ない,立体ディスプレーなどへの応用展開を図るとしている。