北海道大学の研究グループは,銅ナノ粒子を,ヘキサン酸コートにより表面酸化を抑制して安定・大量に合成することに成功した(ニュースリリース)。
プリンテッドエレクトロニクスに用いられるインク・ペーストに含まれる金属ナノ粒子には銀が用いられてきた。銀は,導電性,熱伝導性が金属でもっとも高い上に,空気中でも容易に酸化しないため,酸化を防ぐための表面処理を必要とせず,微細なナノ粒子を用いることで焼結温度を下げることが可能。しかし,現在価格の高騰という課題がある。
銅は銀についで導電性,熱伝導性が高いが,空気中で酸化しやすく,小さな微粒子・ナノ粒子の場合には自然発火してしまう場合もあるため,酸化防止用の表面コーティングが必要。低温焼成に微細な銅ナノ粒子を用いようとすれば,その分,コーティング剤としての有機分子などの量が非常に多くなり,高い導電性が犠牲となる。
そこで研究グループは,低温焼成によって導電薄膜や接合に用いることが可能な銅微粒子として,短鎖脂肪酸の一つであるヘキサン酸にコートされた銅微粒子を酸化銅粉末からのヒドラジン還元により作成し,ペースト化した。
この銅微粒子は比較的酸化しづらく低温で安定保存可能だが,X線回折,原子分解透過型電子顕微鏡分析により,表面にCu64O構造を有していることが明らかになった。
さらに,このCu64Oは,加熱時にヘキサン酸と反応し,金属銅に変化することがわかった。この反応によって,斜方晶のCu64Oが面心立方晶の金属銅に結晶構造が変化することになり,銅原子間距離が変化する。その結果,銅原子が再配列するため,比較的低温で拡散し,粒子同士が効率的につながり,導電性をもった被膜が形成される。
この結果は,微酸化銅Cu64Oを材料として用いた初の例であり,こうした微酸化状態とその自己還元が銅の低温焼結に有効であることを世界で初めて示した。つまり,銅ナノ粒子の酸化状態,結晶構造制御が低温焼結の鍵となることを強く示唆しているという。
この結果,プリンテッドエレクトロニクスに用いる導電材料やパワー半導体などに用いられる接合材料としての銅微粒子の低温焼成に一つの新たな道筋を拓いたとして,研究グループは,銀から銅への元素代替・低コスト化に大きく貢献する可能性があるとしている。