阪大ら,最高性能のマルチフェロイク材料を達成

大阪大学と東京工業大学は,スピントロニクスデバイスにおける新たな電圧情報書き込み技術のために,高性能なスピントロニクス界面マルチフェロイク構造を開発し,世界最高レベルの性能指標(磁気電気結合係数)を達成するとともに,電界印加による不揮発メモリー状態の繰り返しスイッチングを実証した(ニュースリリース)。

次世代の半導体不揮発メモリーとして注目されているSTT-MRAMなどのスピントロニクスメモリーデバイスは,情報書き込み時に電流を印加しているため,書き込み時のエネルギー消費電力が大きいことが課題となっている。

そこで,低消費電力書き込み方式として,さまざまな電界印加方式の技術開発が進められている。中でも最近,強磁性体(磁石)と圧電体の2層から構成される界面マルチフェロイク構造を利用した電界印加方式が注目されている。これは,圧電歪みを強磁性体に伝播させることで,強磁性体の磁化方向を制御する手法。

次世代のスピントロニクスデバイスにおける低消費電力情報書き込み技術への応用を目指すには,より小さな電圧で磁化方向を制御することができる界面マルチフェロイク材料の開発が重要であり,世界中で材料開発が行なわれている。

界面マルチフェロイク材料の性能指標は,磁気電気結合係数と呼ばれている。この値が大きいほど,小さな電界で大きな磁化の変化が発現することを意味しており,実用化のためには10-5ジーメンス毎メートルを超えることが必要とされている。

しかし,これまで強磁性体としてスピン偏極率の高い物質を用いた場合,磁気電気結合係数は10-5ジーメンス毎メートル未満にとどまっており,この壁を超えることは非常に困難だった。

研究では,強磁性体として高いスピン偏極率を持つことで知られるCo系ホイスラー合金磁石の一種であるCo102FeSiと,高い圧電性能を持つ圧電体の一種であるPb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3(PMN-PT)を組み合わせた新しい界面マルチフェロイク構造を高品質に作製し,実用化の壁として存在していた10-5ジーメンス毎メートル台の磁気電気結合係数を世界で初めて実証した。さらに,電界印加による不揮発メモリー状態の繰り返しスイッチングを実証した。

近年IoT技術・AI技術がますます進展する中,半導体素子の消費電力が爆発的に増加することが予想されている。この成果は,不揮発メモリー素子として期待されるMRAMを含む全てのスピントロニクス素子における低消費電力な磁化方向制御技術として期待されるため,研究グループは,「新たな電圧情報書き込み技術」の可能性を提示するものだとしている。

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