東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は,高エネルギー1次宇宙線が生成するExtended Air Shower(高エネルギーEAS)に含まれる多重ミュー粒子の時空間構造並びに水晶発振器Oven Controlled Crystal Oscillator(OCXO)の時間特性を分析することにより,空間的に離れた時計をワイヤレスかつ,100nsを切る精度で時刻同期させることが可能であることを初めて示した(ニュースリリース)。
時刻同期において現在,最も一般的なGPS/GNSSによる時刻同期に代わる,あるいはバックアップする高精度時刻同期技術が求められている。
銀河系における超新星爆発などの高エネルギーイベントによって加速される非常に高いエネルギーを持つ1次宇宙線と地球大気が対流圏界面付近で反応すると,多数の2次粒子が発生して,それらがシャワーのように地球上に降り注ぐ。これらの粒子の相対論的エネルギーは非常に高く,各粒子のエネルギーにばらつきがあっても,ほぼ真空中における光速で大気中を飛行し,ほぼ同時に地球上に到来する。
2次粒子の中には電子やミュー粒子などの荷電粒子が含まれているが,それらについては,従来の粒子検出器を用いることで容易に測定することができる。今回開発した技術は,空間的に複数のCTSモジュールを一定の密度でアレイ配置することで,この2次荷電粒子の同時到達性を測定して,空間的に離れた時計を補正する。
時刻の同期精度は高エネルギーEASの発生頻度による。例えば,1PeVのエネルギーを持つ1次宇宙線の地球への到来頻度は,1km2あたり1秒に3回程度。一方,時計は時刻をカウントしている周期のわずかなずれ(ドリフト)により,ある程度の時間が経過すると指し示す時間が異なってくる。
このドリフトがEASの発生頻度に対して大きすぎると,最初の補正から次の補正の間までに時計の針が大きく変化してしまい,正確な時刻同期を担保することが難しい。逆に,ドリフトがEASの発生頻度に対して十分小さければ,高い時刻同期精度を得ることができる。
OCXOは安価で手に入る時計の中では非常に安定した時計であり,ドリフトレベルが小さい。OCXOとCTSモジュールアレイを組み合わせた場合に得られる時刻同期精度のシミュレーション結果,従来のワイヤレス技術と比べて一桁以上高い同期精度が得られることがわかった。
研究グループは将来,この方式を広範囲に展開することにより,GPS/GNSSに頼らない高精度な時刻同期が可能になるとしている。