東京医科歯科大学と大阪大学は,チタンの不働態皮膜の電子バンド構造から,チタンが優れた生体適合性を示すのは,高い耐食性と適度な反応性を同時に発現するためであることをつきとめた(ニュースリリース)。
チタンおよびチタン合金の生体組織適合性は,金属材料の中で特に優れていることが明らかになっており,医療機器の素材として多用されている。
この優れた生体適合性は高い耐食性以外にも別の因子があると予想されている。通常の環境でチタン表面に自然に生成する不働態皮膜は,その優れた耐食性を生み出すだけでなく生体反応に影響するが,その反応性を支配する生体環境での電子バンド構造については明らかになっていなかった。
そこで研究では,X線光電子分光(XPS)と光電気化学応答解析によって,チタン不働態皮膜のハンクス溶液および生理食塩水中でのバンド構造を明らかにした。CP Ti(JIS 2種)の開回路電位(OCP)を72 hまで測定し,自然の状態に近い電位範囲を求めた。
この電位に近い,−0.2,−0.1,0Vの電位(Ef)で1h定電位分極して不働態皮膜を形成した。これで,自然の状態に近い不働態皮膜が形成できるという。150Wキセノンアークランプとモノクロメーターによって波長250nm~450nmの範囲の単色光を試料表面に20s照射し,生じた光電流を測定した。
定電位分極中のチタン不働態皮膜に生じた光電流から,光電流スペクトルを描き,光電気化学応答スペクトル求めた結果,ハンクス溶液の場合,バンドギャップエネルギーは外層で2.9eV,生理食塩水では外層で2.7eVだった。
チタン不働態皮膜の最外層のバンドギャップは,n型半導体のアナターゼやルチルよりも小さく,ジルコニウム,タンタル,ニオブといった耐食性の高い金属の不働態皮膜よりも小さいことがわかった。このような比較的小さいバンドギャップエネルギーがチタンの反応性を誘起して,高耐食性と両立することで,良好な生体適合性を生み出していると考えられた。
現在材料工学の分野では,マテリアルDX(デジタル革命)やマテリアルインフォマティクスへの取り組みが進んでいるが,これらを生体反応の予測に応用するためには,表面電子構造の解析が必須となる。研究グループはこの手法が,これに大きく貢献すると期待してするとともに,将来は動物実験や細胞実験なしに,材料の生体適合性を予測できるかもしれないとしている。