東京大学と慶應義塾大学は,誘電率がゼロに近い値を示すENZと呼ばれる特性を持つ磁気光学材料を含むフォトニック結晶の構造に注目し,ENZ特性を持つ磁気光学材料を用いることで,過去の報告の1000倍以上の広い波長帯域で動作可能な広帯域トポロジカル導波路の実現が可能であることを明らかにした(ニュースリリース)。
チップ上に様々な光部品を集積した光集積回路は,その更なる小型化・高機能化,高集積化が期待されている。それには,光部品をつなぐ光導波路において,作製時に生じる構造揺らぎや不完全性などによる反射を大幅に抑制することが必要だが,既存技術では容易ではない。
これに対しトポロジカルフォトニクスが大きな注目を集めている。一方向にのみ光が進むことが許されたカイラルエッジ状態を用いることができれば,ゆらぎや欠陥に強い安定した光導波路を実現できる。しかし,光回路で利用される通信波長帯においてカイラルエッジ状態の実現は難しく,極めて狭い波長範囲でしか実現されていなかった。
研究では,磁気光学材料と半導体からなる単位構造を周期的に配列した三角格子フォトニック結晶に注目。この構造において,磁気光学材料の誘電率を変化させた場合のフォトニックバンド構造を数値解析により求めた。
解析では,誘電体の母材にナノサイズの微小粒子を分散したナノグラニュラー材料に相当する磁気光学効果の大きさを仮定した。その結果,磁気光学材料の誘電率が低下するにしたがって,カイラルエッジ状態が存在し得る波長幅が大きく拡大することを見出した。
特に,ENZ領域である誘電率0.01を持つ磁気光学材料の場合には,その波長幅は光通信波長1550nmにおいて約70nmとなることがわかった。この帯域は,別の構造において過去に光通信波長で報告されている値の1000倍以上に相当するという。
また,この構造を用いて構成した導波路構造について分散曲線の計算から,波数0に対して非対称な分散曲線を持つカイラルエッジ状態が確かに存在することも確認した。さらに,カイラルエッジ状態を用いた導波路における光伝搬の様子のシミュレーションにより,欠陥があっても反射なく光が導波すること,磁気光学材料の誘電率が小さい場合にその安定性が向上することも示した。
これらの結果は,広帯域で動作可能で,揺らぎや欠陥に強く一方向に光を導く導波路の実現の可能性を示すもの。研究グループでは,この特性を実現する材料の開発において初期的な結果を得ているとし,これにより,小型高効率なアイソレータや安定に動作するレーザの実現も可能になるとしている。