高輝度光科学研究センター(JASRI)と理化学研究所は,従来観測できなかった太陽光の一億倍にも達する高輝度光ビームの中心を非破壊で観察する方法の開発に成功した(ニュースリリース)。
基礎科学のみならず産業界においても無数の成果を生み出し続けるシンクロトロン放射光では,光源であるアンジュレータから出る光ビームの中心位置の直接的な計測法の開発が待望されていた。
アンジュレータ光は種々の波長の光を含む準白色であり,リング加速器特有の偏向電磁石の放射との識別の困難さもある上に,超高輝度であるが故の熱負荷の問題から,それらのモニタリングは長年の放射光技術の難問だった。
そこで研究グループは,X線の透過性に優れ,高熱負荷にも耐久するダイヤモンド薄膜のX線励起発光を用いたビーム中心の可視化に取り組んできた。しかし,ダイヤモンドの発光では,ビーム透過部が平坦に輝くだけの画像しか得られず,光ビームの中心だけを選択的に可視化する方法が望まれていた。
研究では,光源であるアンジュレータからの出射ビーム(準白色光)が,2結晶分光器の下流(単色光)では容易に中心を観測できることに着目。しかし,分光を行なわない直接の放射光には,様々な波長の成分が広く空間分布しているために,中心の識別は不可能だった。
一方,分光結晶の振動やドリフトがあると,正確なビーム位置を計測することは不可能となるため,光源加速器の安定性の指標となる光中心計測には,結晶分光器上流での光の観測が不可欠。つまり分光器を使わないで波長成分を識別する方法があれば,光ビームの中心を把握することは可能だということに着目した。
研究グループは,ダイヤモンド薄膜のX線散乱が,光源のエネルギー分布の情報を保存しているはずと考え,その空間分布をピンホールカメラで撮像することを考案した。高い透過性のダイヤモンド薄膜は熱負荷に強く,かつビームをほとんど減衰させないため非破壊で下流の実験に用いることができる。
また,ダイヤモンド薄膜として,ピンホールカメラ画像を劣化させる回折スポットの発生位置が正確に予想できる人工ダイヤモンド単結晶薄膜を採用した。このピンホールカメラ画像について2次元検出器SOPHIASを用いて取得後,ドロップレット解析の手法を用いて光子エネルギー弁別すると,任意の波長で可視化された数学的な美しさのあるアンジュレータ光の断面が現れ,光源の設計においてシミュレーションされていた形状と一致していた。
今後,よりエネルギー分解能とフレームレートの高い2次元検出器を本方法に採用することで,鮮明にシミュレーションと一致する画像が短時間で得られるという。研究グループはこの技術は,将来の放射光科学発展のカギとなるものだとしている。