生理研ら,アゲハの色覚神経系の配線を解明

総合研究大学院大学と生理学研究所らは,連続ブロック表面走査型電子顕微鏡で得た連続画像と機械学習法を用いて,アゲハの複眼から入った光の情報が最初に処理される脳領域の配線(コネクトミクス)を明らかにした(ニュースリリース)。

人間の色覚が,網膜にある青,緑,赤の色センサー(視細胞)による3色性であるように,ミツバチの色覚は紫外線,青,緑に感度をもつ。人間には見えない紫外線が見える一方,赤の視細胞が無いために赤は見えない。

ところが,アゲハはもっと複雑で,複眼には6種の視細胞(紫外線,紫,青,緑,赤,広帯域)があり,色覚には紫と広帯域を除く4種が関わっている。

アゲハのすぐれた色覚の基礎にある神経メカニズムを明らかにするために,研究グループは複眼に入った光の情報が最初に処理される脳領域である「視葉板」に着目した。視葉板は,複眼を構成する個眼ひとつひとつに対応するカートリッジという構造でできている。

ひとつのカートリッジには一個眼に由来する9個の視細胞(光センサー)と,視細胞からの情報を受け取る4~5個の神経細胞(二次ニューロン)とが束になっている。個眼には視細胞の色感度の組み合わせによって3タイプがある。

アゲハの脳から,8個のカートリッジを含む組織を切り出し,連続ブロック表面走査型電子顕微鏡を使って,カートリッジ全体をカバーする約2,000枚の連続電子顕微鏡像を得た。機械学習によって同定したシナプスを,情報の送り手と受け手を特定するマトリクスとしてまとめた。

視細胞同士の相互伝達がもつ機能を,マトリクスをもとにシミュレーションした。視細胞は複眼の中では,光を当てると興奮(細胞の電位がプラス方向に変化)するが,複眼から視葉板に伸びた末端部では,光の波長によっては抑制(細胞の電位がマイナス方向に変化)されることが分かった。

この現象は“波長対比性”と呼ばれ,神経が興奮する波長を鋭く研ぎ澄ましてゆく効果があり,色覚のために重要なステップと考えられているという。実際に視葉板で視細胞の反応を調べると,予想通りの波長対比性が見つかった。

ショウジョウバエと比べ,アゲハでは多くの種類の視細胞でとらえられた波長情報の処理が,脳のごく早い段階から始まっていることがわかった。

脳での神経細胞のつながりを網羅的に調べる研究は,コネクトミクスと呼ばれる。研究の結果,神経回路の実体を種間で比較することが,初めて可能になった。研究グループは,比較行動神経科学の研究に,コネクトミクスを活用する時代が来たとしている。

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