浜松ホトニクスは,従来開発品の有効エリアサイズを約4倍まで大面積化し耐熱性を高めた,世界最大級となる液晶型の空間光制御デバイス(Spatial Light Modulator:SLM)の開発に成功した(ニュースリリース)。
レーザーのうち,パルスレーザーは熱の影響による破損を抑え高精度の加工ができる一方,CWレーザーは金属材料の溶接や切断などの熱加工に利用できることからレーザー加工の主流となっている。
同社はこれまで,世界最高の耐光性能を持つ産業用パルスレーザ装置向けSLMの開発に成功している。高出力のパルスレーザを複数に分岐し加工することで,1点に集光し加工する方法と比べ炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの難加工材料を高速,高精度に加工できる。一方,CWレーザー装置への応用も可能だが,SLMの温度上昇により性能が劣化しやすいという課題があった。
今回,SLMの有効エリアサイズを液晶型では世界最大級となる縦横30.24×30.72mmと,従来の約4倍まで大面積化した。これによりSLMの単位面積当たりに入射するエネルギーを抑制する。さらに,耐熱性と熱伝導性に優れた大型セラミック基板の採用により放熱効率を高めた結果,CWレーザーの照射による温度上昇を抑えることに成功し,高出力の産業用 CWレーザー装置向けSLMを実現した。
また,大面積のシリコン基板は製造の過程でたわみやすく,平坦度が悪化することで照射パターンのビーム形状が歪むが,独自の光半導体素子の製造技術を応用し,SLMを大面積化しながらも基板の平坦度を保つ技術も開発した。これにより,高い精度でビーム形状を制御することができるという。
この開発品を高出力の産業用CWレーザー装置に応用し,多点同時加工を実現することで,金属3Dプリンタをはじめとするレーザー溶着やレーザー切断など,レーザー熱加工の効率が向上することが期待される。また,ビーム形状を高精度に制御し対象物の材質や形状に応じ最適化することで,精度の高いレーザ熱加工が可能になる。
研究グループは今後,この開発品を構成する誘電体多層膜ミラーの最適化を図り,さらなる耐光性能の向上を目指す。また,この開発品を搭載したレーザー加工機による実証実験を進めるとしている。
なお,この開発品は,4月18日(月)から22日(金)までの5日間,パシフィコ横浜(神奈川県 横浜市)で開催される国内最大級の光技術の国際会議「OPIC 2022」で発表するとしている。