東北大学と物質・材料研究機構は,強磁場,極低温環境で動作する走査型ストロボスコープ分光顕微鏡を開発し,トポロジカル物質の一種である分数量子ホール液体のエッジを電子が走る動画の撮影に成功した(ニュースリリース)。
トポロジカル相転移は鎖状であれば端部,面状であればエッジ,立体であれば表面だけで生じる。この相転移を利用すれば次世代の電子工学の開拓や未来の量子コンピューターが実現すると期待され,精力的な研究が行なわれている。
研究グループは,約500nm程度の空間分解能と100ピコ秒の時間分解能を持ち,温度-273.11℃,磁場14テスラで動作する超高速顕微鏡(走査型ストロボスコープ分光顕微鏡)を開発した。
この顕微鏡は,ストロボ効果を応用した超高速の顕微鏡。ストロボ光に相当する数ピコ秒のパルスレーザー光を76MHzの周期で照射し,電極に印可した電気パルスで生成された電子の波と同期させることで電子の波が静止して見えることを利用し,静止画像を取得する。さらに電子の波とストロボ光のタイミングを連続的に変化させることで動画の撮影が可能となる。
半導体中の電子は通常,気体中の分子のようにそれぞれが自由に動き回ることができるが,電子が動くことができる空間を2次元の平面内に制限した半導体を作ると,付加価値の高い特性が生まれ,スマートフォンやLEDなど様々な電子部品に利用されている。
このような2次元の半導体に垂直に磁場をかけ,極低温に冷やすと電子は分数量子ホール液体という奇妙な状態になり,試料の端以外の部分は絶縁体となって電子は動き回れないが,試料の端には電気が流れることのできるエッジが形成される。
このような特異な物質のことを一般にトポロジカル物質といい,分数量子ホール液体はその中でも極めて変わった性質をもっている。今回超高速顕微鏡を駆使することで,分数量子ホール液体のエッジに沿って100km/s程度の高速で走る電子の波を動画として可視化することに成功した。
今回用いた超高速顕微鏡は,量子ホール状態を用いた2次元量子宇宙を模したシミュレーターの実験を行なう際に必要な,量子宇宙の幾何構造(計量)を観測する技術として応用可能。研究グループは,分数量子ホール状態やその他のトポロジカル物質の探索,エラーに強いとされるトポロジカル量子コンピューター開発研究に利用することが期待できるとしている。