理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センター,大阪大学は,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」において,XFELのパルス幅(発光時間幅)を直接計測することに成功した(ニュースリリース)。
計測結果から直接的にパルス幅を導出できる「強度自己相関計測」が,可視光レーザーのパルス幅計測技術として普及している。この技術では,自己相関器によって複製したレーザーパルス光を媒質に照射し,非線形光学現象の信号を計測するが,X線の領域では,非線形光学現象が起こる確率はかなり低く,観測するためには非常に強力なX線が必要となる。
現在のところ,利用可能な全てのX線自己相関器では,X線分光器として働くシリコン単結晶が利用されている。そのため,X線自己相関器を通過できるX線の波長幅は,一般的なXFELの波長幅の数%以下になってしまい,非線形光学現象を観測できるだけのX線強度を達成できないという問題があった。
研究グループは,X線自己相関器を通過したX線の強度を上げるため,セルフシード方式によって,波長幅が狭く,明るいXFELを発生させた。その結果,波長1.38ÅのXFELに対して,非線形光学現象の一つであるX線2光子吸収を観測するのに十分な,1016W/cm2を超える強度を達成した。
X線自己相関器によって複製したXFELを,到達時間差を少しずつ変えながらジルコニウム薄膜に照射し,X線2光子吸収の発生確率を計測した結果,それぞれのXFELが時間的に重なっている,約20fsの間だけ発生確率が増大することを確認した。
計測結果から,XFELのパルス幅は7.6±0.8fs(正規分布の半値全幅)と求められ,過去の間接的な評価結果と矛盾しなかった。こうしてXFELの強度自己相関計測を達成し,パルス幅を直接計測することに世界で初めて成功した。
また,ブラッグ反射によってどのような時間波形になるのかを数値シミュレーションによって計算したところ,パルスごとに変化するXFELの時間波形を,ブラッグ反射を利用することで安定的に整形できる可能性が示された。
研究では,X線自己相関器によって整形されたXFELのパルス幅を計測したが,整形前のパルス幅の計測には至っていないという。研究グループは今後,XFELの時間波形を変化させない光学素子を利用したX線自己相関器を開発することで,原理的には1アト秒以下のX線レーザーパルス幅を計測できるとしている。