産総研ら,ドーパント用いないホール輸送材料開発

産業技術総合研究所(産総研)と日本精化は,ペロブスカイト太陽電池に使われる有機ホール輸送材料について,ドーパントと呼ばれる添加剤を使用せず,高い光電変換効率が得られる新規材料を開発した(ニュースリリース)。

新しい超軽量の太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池に使われる有機ホール輸送材料は,ドーパント無しではホール輸送能力を示すホール移動度が小さい。そこで,リチウムイオンなどのドーパントを混合し,ホール移動度を約10倍向上させて高い光電変換効率を得ている。

しかし,ドーパントが熱や光,湿気に対する耐久性を低下させる原因になることがあるため,ドーパントを添加せずに高い効率が得られるホール輸送材料の開発が求められていた。

ペロブスカイト太陽電池の有機ホール輸送材料であるSpiro-OMeTADは,分子の先端に酸素とメチル基から成るメトキシ基を持つ。このメトキシ基を,窒素とメチル基から構成されるジメチルアミノ基に変えることで分子内に電子を送り込む機能(電子供与性)を高める。

そして分子内から電子を引き出す機能(電子吸引性)が高いシアノ基を分子の中心に近い位置に導入することで,ホール輸送材料内部の電子が広く動けると研究グループは考え,新規ホール輸送材料を合成した。

まず,ホール輸送材料にドーパントを添加しない条件において,従来材料と新規ホール輸送材料のそれぞれをペロブスカイト太陽電池(MAPbI3)に導入したところ,光電変換効率が従来材料の12.9%から16.3%と約3割向上した。

この新規ホール輸送材料をより高い変換効率が期待されるペロブスカイト[Cs0.05(FA0.85MA0.15)0.95Pb(I0.89Br0.11)3]と組み合わせた場合,変換効率が18.7%に達した。また,この新規ホール輸送材料は,一般的なホール輸送材料(厚さ100~200nm)と比べて薄膜化(厚さ30~50nm)が可能であることも分かった。より少ない材料で成膜できることから低コスト化にもつながるとする。

さらに,未封止の太陽電池に対して耐久性試験の一つである85℃における耐熱試験を実施した結果,電池の初期性能が1000時間ほぼ維持され,高い耐熱性が得られた。このように,開発した新規ホール輸送材料はペロブスカイト太陽電池の変換効率の向上と耐久性の向上を両立できた。

研究グループは今後,様々な分子構造を持つ新規ホール輸送材料を合成・比較し,ドーパント無しのホール輸送材料の高性能化による太陽電池性能のさらなる向上を目指すとともに,実用に資する長期安定性を実証するとしている。

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