筑波大,メタ原子の光応答を10fsで可視化

筑波大学の研究グループは,開発したフェムト秒レーザー励起二光子蛍光顕微鏡法を用い,メタ原子の一つであるナノ光共振器(構造長約100nm)に表面プラズモン波束が入射し,相互作用を経て通り抜ける様子を,100兆分の1秒の時間分解能で可視化することに成功した(ニュースリリース)。

自然物質にはない新しい光学的機能を持つメタマテリアルを構成する光共振器や光アンテナの一単位を「メタ原子」と呼ぶ。金属型のメタ原子では,電子と光の結合波(表面プラズモン波)が構造体にまとわり付くように励起されることで巨大な分極が生じ,光に対し非常に強い応答を示す。

このような、メタマテリアルの動作原理を根本的に解明し,デバイスの精緻な設計を実現するためには,メタ原子一つひとつの光応答の高精度な観察が必要となる。しかし,メタマテリアルの特徴的な光学的性質(入射光とメタ原子との相互作用)が観察されるのは,メタ原子の共鳴振動数付近の周波数領域に限られるため,微細なメタ原子と限られた領域の光パルスとの相互作用を観測することは困難であり,実験的な評価方法の確立が課題となっていた。

研究では,メタ原子として,構造⻑約100nmの金属-絶縁体-金属型ナノ共振器(MIM-NC)を金属表面上に作製し,この試料表面のやや離れた位置で,光パルスを電子-光結合波(表面プラズモン)波,SPP)の波束に変換してMIM-NCに入射する方法により,単一のメタ原子と光パルスとが相互作用する系を同一平面上に実現した。

この試料を,研究グループが以前に独自開発したフェムト秒時間分解二光子蛍光顕微鏡法(TR-2PFM)で観察したところ,SPP波束が金属表面上を伝搬してMIM-NCに到達し,共鳴的な相互作用を経て通り抜けていく様子を,10フェムト秒の時間分解能,0.5μmの空間分解能で顕微的に可視化することに成功した。

その結果,MIM-NCを通過した波束には,±数µmの強度ピーク位置のシフトが観察され,通り抜けに伴う共鳴的な相互作用が波束の空間形状を変形する効果が確認された。このピークシフトは,共振器の構造長,もしくは波束を励起する光パルスの調整により制御できるという。

研究グループはこの研究成果について,さまざまな新規光学機能を持つナノ構造人工物質や表面プラズモン波で情報伝送を行なうプラズモニックデバイスの開発につながることが期待されるとしている。

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