東大ら,電子顕微鏡で磁力の起源を観察

東京大学と日本電子は,新開発の原子分解能磁場フリー電子顕微鏡(MARS)を用いて,磁石(磁力)の起源である原子磁場の直接観察に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

電子顕微鏡は,現在用いられている全ての顕微鏡の中で最も高い空間分解能を持つ。

しかし,原子を直接観察できるほどの超高分解能にするためには,試料を極めて強いレンズ磁場の中に入れて観察する必要があり,そのレンズ磁場の影響を強く受ける磁石や鉄鋼材料などの磁性体の原子観察は長年不可能だった。

しかし,2019年に研究グループは全く新しい構造のレンズ開発に成功したことにより,レンズ磁場の影響を受けない磁性材料の原子観察を実現した。次の目標として,磁石(磁力)の起源ともいえる原子の磁場観察のための技術開発を続けてきた。

今回,原子分解能磁場フリー電子顕微鏡に新開発の超高感度・高速検出器を搭載することで,鉄鉱石の一種であるヘマタイト結晶中の鉄原子周囲の磁場観察に成功した。この結果は,鉄原子自体が微小な磁石(原子磁石)であることを直接示すとともに,ヘマタイトが示す磁性(反強磁性)の起源を原子レベルから解き明かすもの。

今回の成果は,これまで実現不可能であった,各原子のスピン配列の情報を直接観察することに成功した画期的な成果。この研究で,原子磁場の直接観察の手法が確立したことにより,今後は磁石,鉄鋼材料,磁気デバイス,磁気メモリ,磁性半導体,スピントロニクス,トポロジカル材料など,さまざまなマテリアルやデバイスの研究開発における新計測手法となることが期待される。

研究グループはこの研究について,「極微の世界を拡大して見たい」を追求する顕微鏡研究の歴史に,今まで見えなかった原子の磁場観察という大きな一歩を記す成果だとしている。

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