極地研ら,ブラックカーボン濃度測定を標準化

国立極地研究所,名古屋大学,東京大学,海洋研究開発機構,気象研究所は,独自に開発・改良したBC(ブラックカーボン)測定器コスモス(COSMOS)の観測値を基準にすることで,既存の測定器の観測値をコスモスのBC濃度スケールに統一化することに成功した(ニュースリリース)。

化石燃料やバイオ燃料の燃焼で放出される黒色の炭素微粒子であるBCは,太陽放射を強く吸収することで大気を加熱し雪解けを促進するため,急速に進む北極温暖化において,少なからぬ影響を持つと考えられている。

BCの北極温暖化に対する効果を推定するためには,BC濃度を北極の多地点で正確に長期間測定することが必要。しかし,これまでの北極における観測では,欧米のさまざまな研究機関が異なるBC測定器を使ってきたため,お互いの測定値を直接比較できないことが問題だった。

研究では,エアロゾルの気候への影響を精度高く推定するために,コスモス(COSMOS)と名付けたBC連続測定器を開発した。他のBC連続測定器と比較してコスモスが優れている点は2つある。

1点目は,純粋にBCのみの濃度測定が可能なこと。コスモスは取り入れた大気を加熱し,BC以外のエアロゾル粒子(硫酸塩,硝酸塩,揮発性有機化合物など)を蒸発させることにより,それらの影響を除いた大気の光吸収率の測定を行なう。

2点目は,すべてのコスモスをコスモス標準器で校正することで,各コスモス間での測定値のばらつきを最小限に抑えていること。その結果,コスモスでは,光吸収率とBC濃度との比である変換係数(光吸収率/BC濃度)を高精度で設定でき,BC濃度は,「測定した光吸収率/変換係数」として正確に求めることができる。

一方,他のBC測定器は大気サンプルの加熱機能がなく,標準器とのキャリブレーションがされておらず各測定器の測定値にばらつきが出るため,測定の精度・安定性の評価が難しい。さらに,開発した高精度のBC濃度測定器SP2とコスモスの測定値とを比較した結果,BC連続測定器としては世界最高の精度を達成できた。

次に研究グループは,アメリカ,カナダ,ノルウェー,フィンランド,日本で,各国の4種類のBC連続測定器とコスモスとを比較した。コスモスはBC以外のエアロゾル成分の影響をほとんど受けず,高い精度でBC濃度を測定できる。研究では,コスモスの観測値を基準にすることで,既存の測定器の観測値をコスモスのBC濃度スケールの統一化に成功した。

これにより,北極各地で長年にわたり観測されてきたBC濃度を比較することが可能となり,統一濃度スケールをもつ北極のBC濃度データを得ることができる。研究グループはこの成果が,今後のエアロゾル研究にさらに貢献するとしている。

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