京都大学の研究グループは,高感度発光イメージングと二光子顕微鏡とを駆使して,NK細胞とがん細胞が肺の血管の中で決闘をしている様子を明らかにした(ニュースリリース)。
がんで亡くなる患者のうち9割は原発巣ではなく転移したがんの影響で亡くなっている。がんの転移は肺に最も多く起こるため,がんの肺転移を抑制することができればがん患者の予後が大幅に改善することが期待できる。
がん患者の血中にはきわめて早期から多数のがん細胞が循環していることが近年明らかにされてきた。それにも関わらず転移巣がなかなか形成されないのは,肺においてナチュラルキラー(NK)細胞ががん細胞を効率よく殺傷しているため。
しかし,NK細胞が肺でどのようにがん細胞を排除しているのか,顕微鏡レベルで観察した研究はなかった。そこで研究グループは,実際に肺でNK細胞ががんを殺傷している現場を観察することで,新たな転移を抑制する方法の手がかりを探索することにした。
まず麻酔をかけたマウスの肺を二光子顕微鏡で観察し,NK細胞とがん細胞を観察する系を確立した。次に,NK細胞には活性化状態をモニターする蛍光バイオセンサーを,がん細胞には細胞死の刺激に反応する蛍光バイオセンサーを導入し,肺の血管上でNK細胞とがん細胞が出会った瞬間になにが起きるのかを観察した。
その結果,まず,がん細胞がNK細胞に接触する確率は約2時間に1回。そして,そのうち約70%の確率で,NK細胞が活性化され,さらにそのうち約70%の確率でがん細胞に傷害が起きることがわかった。つまり,NK細胞とがん細胞が相対すると約5割の確率でがん細胞は死んでしまう。
これを繰り返すことで,99%のがん細胞は排除できる。しかし,生き延びた1%のがん細胞は24時間の間にNK細胞ががん細胞を認識するための目印であるCD155/PVR/Necl-5という分子を,血液凝固系を利用してその表面から脱ぎ去ってしまい,NK細胞から隠れてしまうことも同時にわかった。この結果は謎であった血液凝固阻害剤の腫瘍抑制効果の原因も説明できるもの。
研究グループは今後,転移後24時間以内に失われてしまうNK細胞の監視機構を長続きさせる方法や,転移が確立した後にNK細胞のがん細胞認識機構を再起動させる方法について検討し,がん患者の転移を防ぐ方法の開発に繋げてていきたいとしている。