海洋研究開発機構(JAMSTEC)とトリマティスは,海中探査機を適用した光ワイヤレス通信試験を深海域で実施し,通信距離100m超で1Gb/sの通信速度を有する高速海中光ワイヤレス通信に成功した(ニュースリリース)。
海中の伝搬技術の主軸である音響は,海中において圧倒的な遠達性を保証するものの,伝搬場の環境に起因する品質劣化要因が多く,周波数帯も比較的低いため,通信速度や可視化分解能も遅く,低くなる。
そこでJAMSTECではレーザー光に注目。2010年以降は様々な取組みが国内外でも始まり,海中ワイヤレス通信技術についても音響通信技術と比較すると著しい通信速度の高速化をもたらしたが,地上における通信性能と比較すると依然として大きく劣り,適用分野も限られていた。
そこで研究グループは,海中環境においても地上と同レベルのワイヤレス通信を実現するために,レーザー光を用いた研究を開始した。海中環境がレーザー光の伝搬特性や通信品質に与える影響を整理・分析し,その原理や条件を明らかにするために基礎研究を進め,これを抑制する通信方式について検証してきた。
2019年からは,実海域において1Gb/s×100mの光ワイヤレス通信を目的とする通信試験機の開発を進め,今回,この試験機を「かいこう」ランチャーおよびビークルに搭載させ,ランチャー~ビークル間の距離を段階的に100mまで伸長させながら1Gb/s通信速度による通信試験を実施した。
試験では試験フレームの受信成否(誤りのない試験フレームの受信数)を確認するとともに,受光強度,伝搬場の環境パラメータを計測した。通信距離が伸長されるに連れ当該レーザー光は,海水を構成する諸成分により拡散・吸収(減衰)されていくため,1Gb/s試験フレームの品質を損なうことなく長距離を伝搬させることは困難となる。
しかしこの試験では,「かいこう」ビークルの挙動を適宜制御することで光軸合わせを試み,100m超の通信距離においても1Gb/s試験フレームを良好に受信したことを確認した(水深900m,ランチャー深度約699.5m,ビークル深度802.9m)。
これにより,高出力1Gb/sの送信系をマルチビーム化することで海中伝搬場における通信レベルとビーム有効径を保証し,高感度なPMTをアレイ配置した受信系により受光効率の大幅向上が図られ,海中においても地上と同レベルの高速通信ネットワークが非接触(ワイヤレス)で実現できることが証明された。
研究グループはこの成果が,海底資源開発や地震・津波等の防災技術に貢献するとしている。