KEKら,次世代太陽電池の高効率をミュオンで解明

高エネルギー加速器研究機構と米ヴァージニア大学は,有機無機ハイブリッドペロブスカイト系化合物の典型物質であるヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)について,その高い光電変換効率と結晶中の有機分子の運動との間に明確な相関があることを明らかにした(ニュースリリース)。

有機無機ハイブリッドペロブスカイトの高効率性の起源は,結晶中で電気エネルギーを運ぶ電荷キャリアが長寿命であることと考えられている。

しかし,有機無機ハイブリッドペロブスカイトにおける長い電荷キャリア寿命の背景にある原子レベルでのメカニズム,特に結晶中の有機分子の挙動との関係は明らかになっていなかった。そこで,代表的な有機無機ハイブリッドペロブスカイト,CH3NH3PbI3について,高効率性を実現するミクロな仕組みの解明を試みた。

研究グループはまず,キャリア寿命がマイクロ秒の時間スケールをもつ点に着目。この時間スケールで起こる現象は,ミュオンスピン回転(µSR)法が得意とする観測対象であることから,ミュオンを用いて物質の磁気的性質を探る汎用µSR実験装置を用いて研究を行なった。

研究グループは,温度上昇に伴うCH3NH3PbI3のジャングルジム構造と,ミュオン偏極率の変化を調べた。その結果,この物質では,温度上昇に伴い,熱励起により有機分子の回転が速くなると,光電変換効率の起源とされる電荷キャリア寿命が短くなることが分かり,有機分子の自由な回転運動の速さが適度に抑制されていることが,この物質の長い電荷キャリア寿命に重要であることが示された。

有機分子の回転運動とキャリア寿命の関係が分かってきたことは,今後のさらなる研究によりキャリアの寿命を延ばし,高効率化を実現する可能性があること示しており,太陽電池の性能向上につながる重要な知見だという。

また,この研究は,このメチルアンモニウムの回転運動を観測する手段として,これまで固体内の分子の運動を観測する手段としては使われてこなかったミュオンスピン回転法を用いた初の例であり,その有用性を示したという点でも非常に意義深い。

これらの知見は,固体中の分子の運動について,ミュオンスピン回転による観測を活用する第一歩であると同時に,次世代太陽電池材料の性能向上への手がかりとなるもので,研究グループは,より高効率で安価な太陽電池材料や光情報デバイスの開発が期待できるとしている。

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