慶應義塾大学と産業技術総合研究所は,平板材料の厚さと屈折率を,同時に極めて高精度に計測する技術を開発した(ニュースリリース)。
2つの物質における屈折率の違いによって境界面で光の屈折がおき,これがレンズを用いた集光の基礎となる。
光の屈折角は屈折率に依存するため,光学レンズをはじめとした光学素子の設計には,素子を構成する物質の屈折率を正確に求めることが欠かせない。また,一般に光学レンズは平板ガラスを研磨して作る。そこで,平板形状の物質について,その屈折率と厚さを同時に正確に計測できると便利になる。
屈折率の値を高精度に求めるために用いられてきた最小偏角法の相対精度は2×10−6に達するが,最小偏角法は物質をプリズム形状に加工する必要があり。今回研究グループは,デュアルコム分光法を用いることで,物質を平板のままで,広い波長域における屈折率,および厚さを同時に高精度に計測する手法を開発した。
研究ではシリコンの平板を試料とし,デュアルコム分光法を用いて,波長1.52μm~1.57μmにわたって試料を透過した光に対する透過率と位相変化を調べた。シリコン平板では,試料の表面・裏面から複数回の光の反射(多重反射)が起こるため,それに起因する信号が現れ,この信号は物質内部での光の位相変化量を反映する。研究グループは,この多重反射信号からシリコン平板内部での光の位相変化量を求め,各波長での屈折率を求めた。
一般に,試料の厚さは「光の波長」に比べて非常に大きく,光が試料内に何波長分存在するのかが分からず,光の位相変化も正確に分からない。その結果,計測される屈折率の精度が低くなる。
今回,データ積算を重ねて各周波数での位相変化量の測定値のばらつきを抑えたこと,および光が何波長分試料に存在するかを決める新しい解析法を開発し,試料に対する屈折率および厚さの測定精度が飛躍的に向上した。
さらにこの手法では,広い波長域における高精度な屈折率測定と,高い精度で厚さを決定することにも成功した。なお,今回の実験では環境温度の評価不足のため,シリコン平板の屈折率の相対精度は2×10−5に留まったが,測定値のばらつき(標準偏差)は4×10−6であり,高精度の環境温度評価により,最小偏角法の計測精度と同等の相対精度4×10−6が達成できるとする。
研究グループは今後,この手法を各種光学材料の精密屈折率計測に応用するとともに,デュアルコム分光法を用いたさらなる高精度物性計測に取り組むとしている。