近畿大学と大阪府立大学は,イリジウム錯体を発光材料とする有機発光ダイオード(OLED)を開発し,外部から磁力を加えることで円偏光を発生させることに成功した(ニュースリリース)。
通常,有機発光ダイオードが発する光は,右回転円偏光と左回転円偏光の両方を含んでいる。3D表示に必要な右回転円偏光だけを得るには,フィルターを用いて左回転円偏光をカットする必要があるが,光量が半分になってしまうという問題があった。
現在,鏡面対称の構造をもつ光学活性な分子を用いて円偏光有機発光ダイオードを作製し,右回転円偏光または左回転円偏光を発生させるのが一般的。この方法では,右回転と左回転の円偏光を発生させる分子が混在している状態(光学不活性)から,目的の分子だけを得る必要があり,作製コストが高くなる点が課題となっていた。
研究グループは,発光ダイオードの材料として実用化されているイリジウム錯体を発光材料とする有機発光ダイオードを開発した。イリジウム錯体は,室温でリン光を発して高い発光効率を示すことから,有機発光ダイオード用リン光材料として盛んに研究されている。例えば,イリジウム錯体の一つであるIr(III)(ppy)3は,高効率なリン光性緑色発光を示し,有機ELなどへの応用が研究されている。
研究では,光学不活性なイリジウム錯体2種,Ir(III)(ppy)3,Ir(III)(ppy)2(acac)をそれぞれ発光材料とする2つの有機発光ダイオードを作製した。これらに外部から磁力を加えながら光を発生させたところ,発光材料が光学不活性であるにもかかわらず円偏光を発生させることに成功した。
さらに,加える磁力の方向を変えることによって円偏光の回転方向を反転させることに成功し,Ir(III)(ppy)3とIr(III)(ppy)2(acac)を用いた有機発光ダイオードでは,光の回転方法が反転することも明らかにした。
外部から磁力を加えることによって円偏光が発生する現象自体は古くから知られているものの,これまでは発光する分子に対して磁力をかけた場合のみ観測されていた。今回,室温かつ永久磁石による磁場下に有機発光ダイオードを設置するだけで円偏光を発生させることに成功した。
光学不活性な分子は,一般的に光学活性な分子よりも製造コストが安価であるため,円偏光有機発光ダイオードの製造コストも抑えることが可能。研究グループは,この成果によって,3D表示用有機ELディスプレー等の製造コスト削減や,高度な次世代セキュリティ認証技術の実用化などにつながることが期待されるとしている。