大阪大学,神戸大学,東京理科大学,横浜市立大学,京都大学,東京大学は,動植物共通の組織・器官透明化法iTOMEI(improved Transparent Organ Method for Imaging)の開発に成功した(ニュースリリース)。
切片を作製することなく内部構造の顕微鏡観察が可能となる組織や器官の透明化方法は,植物と動物では組織や器官に含まれる物質が異なるため,別々に開発されてきた。また,蛍光イメージングにおいて従来の透明化手法は,対象が植物の場合に透明化処理を行なうと,蛍光タンパク質の蛍光が弱くなる問題点があった。
植物の組織や器官をイメージング解析する際に,自家蛍光を持つクロロフィルが含まれる葉緑体は大きな観察障害となっていたが,今回,この自家蛍光を除去するために,複数の界面活性剤を検証したところ,カプリリルスルホベタインによりクロロフィル色素由来の自家蛍光を除去することができた。
また,カプリリルスルホベタイン処理を行なっても,植物の中で発現させた蛍光タンパク質の蛍光強度にはほとんど影響はなかった。この手法により,葉緑体を持つ組織の内部構造を三次元的にイメージング解析し,植物組織深部の細胞で発現している蛍光タンパク質の解析も可能になった。
また,組織や器官の固定を行なう際に,蛍光タンパク質の蛍光強度が減少することが知られている。この問題を解決するために,固定した組織や器官に対して,弱いアルカリ処理を施すことで蛍光タンパク質の蛍光強度を回復させることができた。
この回復した蛍光強度は透明化処理をした後も維持された。また,顕微鏡観察時に用いる封入剤としては,コンピュータ断層撮影(CTスキャン)の造影剤として使用されるイオヘキソールが最適であることがわかった。
これにより,植物組織・器官を,蛍光タンパク質の蛍光強度を維持したまま27時間以内に透明化し,解析することが可能になった。さらに,iTOMEI法をマウスの脳の透明化に適用したところ,48時間以内に透明化することができたという。
この透明化した脳を用いて蛍光タンパク質の検出を顕微鏡で行なったところ,大脳皮質表面から3mmの深さにある細胞に局在する蛍光タンパク質を検出できた。加えて,海馬と大脳皮質の細胞体,軸索,樹状突起における蛍光タンパク質の蛍光も明瞭に検出できた。
これにより,蛍光タンパク質の蛍光強度を維持したまま,さまざまな組織や器官の透明化を,動植物共通の方法で解析することが可能になる。研究グループは今後,農作物の品種改良や脳の診断開発などの分野に貢献することが期待されるとしている。