富士経済は,セキュリティ関連の国内市場を調査し,その結果を「2021 セキュリティ関連市場の将来展望」にまとめた(ニュースリリース)。
それによると,2020年は東京五輪に向けた設備投資が一段落したほか,緊急事態宣言の発出により新築ビルや住宅の建設計画の見直し/遅延,企業の設備投資が抑制された影響を受けたものの,セキュリティ需要は底堅く,市場は前年比2.2%減にとどまった。
2021年は新型コロナの流行が続いているものの,人々の防犯・防災に対する要望は強く,企業のセキュリティ関連の設備投資も回復に向かっているという。また,企業における働き方改革や人々の行動様式の変化により,それらに対応するセキュリティ関連ソリューション/サービスの新たな提案がベンダーによって進められている。
今後,バイオメトリクスが好調なアクセスコントロールや,高齢者在室安否確認サービスをはじめとした家庭向け機器/サービス,ドライブレコーダーを主軸とした自動車などがけん引し,市場は拡大すると予想している。
調査書が注目する顔認証,静脈認証のうち顔認証は,登録した顔情報と目,鼻,口などの位置を基にして本人の顔を照合する認証方式。入退室管理とPCアクセス管理用途を対象とした。
顔認証はスマートフォンの認証方式や東京五輪関連の施設で採用されたことから認知度が向上している。また,新型コロナ流行を契機に完全な非接触での認証が可能である点や体温測定機能,マスクを付けた状態でも認証可能な製品展開などで需要が増えているという。
入退室管理用途は,非接触対応や測温機能の追加を利点として,感染症対策でニーズが高まっている。低価格なサーマルカメラの採用を切り口に新興メーカーが多く参入し,製品単価が下落したこともあり,2020年は一時的に縮小したが,2021年以降は感染症対策を軸に伸びるとみている。
PCアクセス管理用途は,前年の生命保険会社の大規模導入による特需の反動により,2020年は大幅に縮小した。しかし,今後は,情報セキュリティのガイドラインが刷新されたことで,官庁や金融機関,教育分野での採用が増えるとともに,テレワーク用端末への導入も拡大しており,伸長が期待できるとする。
静脈認証は,身体内部の指静脈パターンを利用して本人認証を行ない,偽造やなりすましが困難で高度なセキュリティが実現できることから,需要が増加しているという。ここでは入退室管理とPCアクセス管理用途を対象とし,指静脈と指紋を組み合わせたハイブリッド型や,静脈と動脈を組み合わせた血流認証なども含めた。
入退室管理用途は,2020年は設備投資を抑制する動きがみられたものの,影響は軽微であったという。2021年は非接触対応や認証精度の高さ,認証速度の速さが評価され,オフィスビルや官庁,データセンター,コールセンターなど,高いセキュリティが要求される分野を中心に採用が進んでいる。
PCアクセス管理用途は,2020年は予定案件の導入延期など設備投資抑制の動きがみられ,前年比30%以上の縮小となった。しかし,落ち込みは一時的なものであり,2021年以降は自治体向けのリプレース需要や,厚生労働省が策定する「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」改定により医療分野での採用が期待され,市場拡大が予想されるという。
監視カメラ市場は,2020年は前年に東京五輪や再開発案件などで大きく伸びた反動減に加えて,新型コロナ流行によるビル工事の遅延や企業の設備投資抑制などにより,市場は前年比5.4%減となった。
2021年は新型コロナ流行により営業時間が制限された飲食業界や,利用者数が減少している鉄道施設,空港,宿泊施設など一部では設備投資抑制の動きがみられるものの,需要は堅調で,市場は前年比5.3%増の593億円と2019年と同等の規模までに回復するとみる。
製品タイプ別ではIPカメラが中心となっている。利便性の高さや低価格化が進んだことで需要が堅調であり,主要メーカーも主力製品に位置づけているため,2021年以降も順調な伸びを予想する。
アナログカメラは,アナログCCTVカメラからの切り替えが進むアナログHDカメラは底堅い需要がみられるという。画像解析ソリューションとして,新型コロナ流行の影響により混雑検知で使用されるケースが増えている。
製造現場向けの作業効率化や安全対策,検品対応などの需要も堅調とする。また,2020年にはサーマルカメラが急速に伸び,国内ベンダーが中国をはじめとした海外製品を調達し,販売する動きがみられたという。